駅前近くのファミレスはサラリーマンやOLでほどほどの人入りだった。
「ここでいいか?」
「私はいいけど手塚くんは大丈夫? あんまり目立たない方がいいんじゃないの」
「渋谷とか原宿なら軽挙妄動だが、オフィス街のレストランなら問題ない。ただ入り口側に背中を向ける席に座らせてくれ」
「もちろん大丈夫」
軽挙妄動な奴、いたなーー。
とある金髪を思い浮かべつつ頷いた。
お得なランチメニューをそれぞれ頼み雑談する。内容は今日の授業や大学生活について、などなど。
話しているうちに運ばれてきた料理を今度は黙々と食べた。若干の気まずさも添えて。
ほぼほぼ食べ終わり水を飲むと、既に食後のコーヒーを楽しんでいた手塚くんが口を開く。
「そういえば、あいつ家ではどうなんだ」
「あいつ? 怜?」
「そいつしかいないだろ」
同じユニットなんだから名前ぐらい呼びなよ。
そう言いそうになったが、睨まれそうだったので言葉を飲み込む。
「怜は別に普通だよ」
「そんなわけないだろ」
「普通に、横暴だよ……」
「本当によくやる。押しかけられたのなら追い返せばいいものを」
呆れ顔で深いため息。なぜ手塚くんがそんな顔をするのか。
「ほっとけなかったの。しょうがない」
「お前、損する性格だな」
「自覚はしてる」
成り行きでそうなったから仕方ないのだ。
それに、怜と暮らすのも、手塚くんにまるで小間使いのような扱いを受けるのもそこまで大変でもないし。
なんて言ったらドン引きされそう。
黙っておこう。
それぞれ支払いを終えて店を出る。もう14時近い。
「なあ」
別れ際、彼は渋い顔をした。
テレビで見る完璧な微笑みでも、いつもの無表情でもない。
「怜と……付き合ってるのか?」
吹き出した。
その上、ツボに入った。
「な、なんでそんなに笑うんだよ」
「い、いや、ありえなさすぎて」
その質問にその神妙な面持ち。大笑いの私を見て手塚くんは似合わず狼狽えている。
「ないない。私がアイドル飼ってるだけだよ」
本人は逆だと思ってるだろうけど、と付け加えて。
「売り出し中のアイドルの邪魔はしないし応援も全力でしてるから心配しないでね」
「は? いや、俺はそういうつもりで、」
「じゃあそういうことで!」
「あっおいノート!」
手塚くんと反対側のホームに向かった。
あれはどういう意味?
牽制なのかな。
撮られたら困るとかそういうこと?
そんなことはわかっている。この生活を長く続けるつもりは無いし、続くはずもない。
怜とは一時的に一緒に住んでいるだけだから。
私は推したちが売れるためのサポート役をさせてもらってるだけだし。
いつ来るかわからない別れの時まで、円満にやり遂げてやるのが今の目標だから。
自分にそういいきかせた。