「……で、なぜここに?
なぜ私とご飯を食べているの?」
「俺、今日からここに編入で学内のことわからなかったから」


そう言いながら兎束くんは日替わりランチを無表情で食している。

不思議というか、合縁奇縁とでもいうべきか。
まさか兎束くんと同じ大学同じゼミになって、学生食堂で一緒にお昼を食べる日がくるとは。

冷静なフリをしつつ、私は内面かなり動揺していた。


怜をたまたま拾ったあの日と今とじゃあかなり状況が違う。


彼はアイドル。私は一般人で彼らのファン。

そんな関係性、というか私の分際で、兎束壇と二人きりでランチ?


……ファンに殺される。


それにしても、全く彼の正体に気づかなかった。そして多分これからも気づくことはなかった。

だからこそ私に声をかけてきたことが気になる。
それどころか、もっと根本的な部分も引っかかった。


「よく私のことわかったね」


ずっとご飯と向き合っていた彼が、怪訝な顔をして私に視線をやった。


「あんな奴と同居してる物好きの顔、忘れられない」


そんなにパンチがあることだったのか、それは。

変な人と思われていたら困ると思いつつ、実際自分が常軌を逸しているという自覚がないわけではなかったので、何も言わずお茶をすすった。


「あ、改めて言っておくけど、俺本名手塚詩壇(しだん)だから。兎束って言わないで」
「芸名なの?」
「そ。茶川さんもね」
「そうなんだ」


しだん、なんてかっこいい名前。
むしろ芸名っぽい。


あれ、怜って芸名なのかな。

もし本名隠されてたらちょっと悲しいな、と思わなくもなかったけれど、本名を教えてもらう義理もないか。

……いや、義理はあるか。

それでも今ここで彼に怜のことを聞くのも野暮だろうしと口をつぐむ。