「なんっでお前がいるんだよ!?しかも結構いい座席にいんじゃねえかよ!!」
「なんで? 一ファンだしちゃんとファンクラブ入ってちゃんと当選したんだからよくない?
それともファンに対して自分たちのステージに来るなって?」
「いやまあ……そこまでは言わねーけど……」
もごもごとなにか言いながら、彼はシャワールームへ向かった。
千秋楽の次の日の夕方うちに帰ってきた怜は、怒り心頭であった。
理由は私が会場にいたから。そしてかなりの前列にいたから。
しょうがない。
だってファンクラブに入ったのも、ライブを申し込んだのも、怜がうちに押し掛けてくる以前の出来事なのだから。
ま、不機嫌の理由は、もしかしたら私が兎束くんのうちわを持っていたからかもしれないけれど。
そんなことは知ったこっちゃないのだ。
「んで? 感想は?」
「え?」
「ライブの感想。見に来たんだったらオレ様に感想言う義務があんだろ」
そんなものあるのか……?
「え、は、はあ……」
それでは、と軽く咳払いをして、スマホのメモに書き殴ったレポートを一曲目から事細かに話す。
一通り話し終わると怜は静かにうなずいて、「じゃあ次、直せそうなとこ」と意見だしを求めた。
「直せそうなとこ?」
「なんかないのかよ」
「あるわけなくない!?
私そんな批評家的目線で見てないし、DVDより圧倒的にクオリティ上がってたあのライブに意見なんてない」
「フン。じゃ、それでいい。
オレ様も今できることはやれたからな……」
ライブの余韻を感じているのか、静かな興奮が伝わってくる。
私も人生初めてのライブを思い出した。
彼らを知れてよかった、と思った。
と同時に、やっぱり隣に君がいることはあまりにも絵空事のようで。
私はずっと夢を見ているのではないかと思う。
私が知らなかった時の彼らのパフィーマンスを見ながら、私はふと、そんなことを考えていた。