「おい、ダンスシューズ持って大至急事務所来い!」
怜の所属するグループ・NEW-aggressiveの全国ツアーは、成功を重ね遂に千秋楽の東京公演を目前としていた。
しかし毎日の激しいレッスンのせいか、最終公演間際にして怜のダンスシューズは大往生。
昨晩彼の新品のシューズに私は紐を通していた。
「なんでわざわざ紐変えるの?」
「全員真っ黒のシューズだからメンカラでわかるようにしろってマネージャーに言われた」
「ふーん」
メンカラ、メンバーカラーはそれぞれにあら得られたイメージカラー。
怜は赤で兎束くんは青、もう一人の茶川(さがわ)秋さんは緑だったっけ。
「いつも持ってくものじゃないから、明日は忘れないようにしないとね」
「んなもんわーってるよ。オレ様が忘れモンなんてするわけねーだろ」
___以上が昨晩の会話である。
「‥‥怜、馬鹿でしょ」
「あ、今なんつった!? いいから早く持ってこい」
「そんなこと言われても今大学だよ」
「どいつもこいつも大学大学‥‥‥終わってからでいいから頼む」
「頼む!?」
信じられない言葉が出てきて、思わず聞き返したとき、既に電話は切れていた。
自分でも取りに行けるだろうに行かないのは、その時間すら惜しいのだろう。
仕方ない。
今日はこの授業で学校は終わりだし、早急に届けてやろう。
気合を入れて、教授の登壇を待った。