「ううっ‥‥‥グスッ」
「‥‥‥」
怜、まさかの大号泣。
映画館を出てもずっと鼻をすすっている。
そっとポケットティッシュを差し出すと、乱暴に受け取り思いっきり鼻をかんでいた。
「お前っ‥‥‥悲しくねえのかよ」
「いや、とても悲しいし私も泣いたけど、原作ファンで展開は知ってたからさ」
主人公とやっとの思いで結ばれた男の子が、初めてのデートの日交通事故で亡くなってしまうお話。
そこまでの過程が過程なだけに、ものすごく涙を誘われる。
映画では特に演出がよかったけれど、
隣で大粒の涙を流す成人間近の男性がいたら興ざめというものだ。
「だからってそんなに淡白なんてありえねーだろ普通‥‥‥」
そんな私の気持ちなどよそに、怜はいつも通り好き勝手罵倒してくる。
涙は出なくなったようだが未だ目は真っ赤。
館内でも男性の号泣という別の意味で目立っていた。
腕を引き急いで立ち去る。
「まあ? あいつの演技もよかったけどよお、オレ様の方が何千倍も泣かせる演技ができるからなあ‥‥‥!」
「はいはい、先輩をあいつ呼ばわりしないの」
「あーーー悔しいけど感想送ってやるか‥‥‥」
そう言って彼はおもむろにスマホを開いた。
先輩にもらったチケット当日に使って、感想まで送るって。
もしかしたら他のアイドルにとっては当然のことかもしれない。
けれど、この怜がそんなマメなことをするのは意外だった。
やっぱり勉強熱心なんだな。
「なんだよ」
「いや、偉いなと思って」
「偉い? フン、これぐらいアイドルとして当然だろ」
いつもみたいな自信満々な返事ではない。
まるで1+1を2と答えるような、そんな自然さで。
アイドルとして当然、か。
「うちの役割分担をこなすのも当然だって、忘れないでね」
「はっ、最近はちゃんとやってるっつーの」
これ以上褒めたら絶対に調子に乗るから、本音は心に閉まっておくことにした。