渉は電話の向こうで泣いていた。

まったく涙もろくて泣き虫なんだから、これから夫となり、家族を守る男になるのに情けない。

でも優しい子だ。

瑞穂に連絡を入れたいところだが、きっと渉が電話をしているだろう。話し中が関の山だ。

瑞穂には悪いけど、今は、一ノ瀬さんに会いたい。

私の心が、一ノ瀬さんを求めていた。

「夜遅くなっちゃったけど、いいわよね」

会いたい心を抑えられなかった。

時間も、一ノ瀬さんの都合も関係なかった。ただ、会いたかった。家を出る時のお守り、哲也の写真はもうアルバムの中だ。誰にも挨拶はしない。

電車を乗り継いで一ノ瀬さんの住む場所へ行く。

体調は戻っているだろうか。まだ事務所だったら、待っていよう。

でもこの時間ならさすがに帰宅していてもおかしくない。

体調を崩した後だから、少しは労わっているだろう。

具合が悪い一ノ瀬さんを送って行って、場所は分かる。

タクシーだったけど、スーパーを目印にすれば行けるはず。

気持ちが急いてしょうがない。こんな気持ちが残っていたと言うことに、さらに驚く。

駅を出て、すぐにマンションが見えた。

会いたい気持ちが溢れ出して、私は涙が出る。

バッグからスマホを出して、一ノ瀬さんに電話をする。

「もしもし……」

『どこにいる、いま、何処にいるんだ』

私の次の言葉を聞かずに、焦っている一ノ瀬さんの声が聞こえる。

哲也だけじゃなく、一ノ瀬さんにも心配をかけていた。