休みの最後の日、私は哲也のお墓に来ていた。

いつもの様に、お墓を掃除して、手を合わせる。

今日は話すことはなく、ただ、墓誌を見つめていた。

「おや、お嬢さんは」

声を掛けてきたのは、七回忌法要の時にお会いした住職だった。

「こんにちは」

「ああ、こんにちは。今日も暑いねえ」

「ええ、本当に」

坊主頭の住職は、頭の汗もすごかった。

手に持っているのは、タオルで、ハンカチでは拭ききれないのだろう。

帽子をかぶるわけにはいかないのだろうが、気を付けて欲しい。

「お墓参りかの?」

「はい」

「そうか……一つ、お嬢さんに話をしよう。いいかな」

「……はい」

「……お墓参りをすれば供養になっていると思っている人が多いが、心があればお墓参りなどしなくてもいい。心がなくて義務的に墓参りに来るよりよっぽどいいのだよ。いつまでも忘れずに故人に思いを寄せる。心のこもったお参りそれが大切だ。それに何より、故人は大切な人の幸せを願っているものだ。お嬢さんはいい顔をするようになった。故人も喜んでおられるよ」

住職は、私に説法の様に話をして、手を合わせて行ってしまった。

私の顔が変わったと住職は言った。住職の目には不幸せな女の顔に見えていたのだろうか。

哲也を想っている間、私はずっと幸せだった。

住職が私に言ったことと違うと反論したい。

でも、哲也は私の幸せを想ってくれているということは受け入れた。

「私の幸せを願ってくれているのね」

私は、自分の唇に指をあて、哲也の名前が彫られた墓誌にその指をあてる。

「私の最後のキスよ」