軽井沢を出ると、次は山梨に向かう。

虫が大嫌いだと言ったのに、哲也はキャンプをしようと、キャンプ場を予約していた。

『テントじゃなくて、ロッジを予約したから、夜は虫の心配がないよ』

『嘘じゃないでしょうね』

『疑り深いんだよな、美緒は。信じろ』

さすがに一人でロッジに泊る勇気はなく、宿泊はキャンプ場近くの旅館に予約をした。

今の様に、至れり尽くせりじゃないキャンプに、火を起こすだけでも四苦八苦で、夕食を食べることが出来たのは、夜もかなり遅い時間だった。

『お腹が空いて死にそう』

『俺も』

『まったく、キャンプをしようなんて言うからよ』

『だって、どうしてもやりたかったんだもん』

ケンカになりそうな時でも、哲也は怒ることがなかった。

プンプン怒る私をなだめるだけで、怒ったりしない。

私は付き合っている時、一度も哲也とケンカをしなかった。

ロッジに戻り、中からキャンプの残骸を見て、

『明日の片付けは悲惨だな』

『うん』

うんざりした覚えがある。いい思い出が残りそうにないなと思った山梨の旅行は、思わぬ形で感動を残した。

『今日は晴れて良かった。昨日は雨でどうしようかと思ったけど』

『本当だね』

『美緒にね、この星空を見せてあげたかったんだ』

窓辺に立つ私の背中から抱きしめ、夜空を指さした。

『凄い……キレイ……』

都会のネオンに邪魔をされない星の灯り。

夜空に広がる満天の星。吸い込まれそうな漆黒の空に、星が光り輝いていた。

自然に感動して涙を流したのはこの時が初めてだった。

『子供の時、家族で来て感動して、どうしても美緒に見せてあげたかったんだ。来てよかった』

哲也は言った。

「哲也、今夜の星も、あの時と変わらず輝いているわよ。見えてる? そうね、哲也は毎日見てるわね。綺麗な星空をありがとう」

私に光を見せてくれた星空は、明け方までその光を失うことなく輝き続た。