「迷ってるんだから相談に乗ってくれよ。親戚だって呼ばないといけないし」

「親戚? 面倒だから、家族と友達だけにして、親戚は報告だけにしなよ、面倒じゃない」

「いいのかな?」

「いいわよ、このご時世、お祝いを出すのだって渋るのに、式に参加するだけで、着付け代や美容院、服だって買う人がいるかもしれない。それに、税金の納付書がまとめて送られる春や帰省でお金のかかる夏、年末だってお金がいる季節よ? じゃあ、お金がかからない季節に結婚式を挙げるの? 違うわよね? 自分たちの思い出がある季節とか、こだわりのある季節にしたいでしょう? ご祝儀だけじゃすまないのよ。金額もはるから、呼ばない方がかえっていいのよ」

「「なるほど」」

二人は声を合わせて感心した。

「式にお金をかけるのもいいけど、二人の新居や旅行にお金をかけた方が私は良いと思うわ。まあ、二人の価値観の問題だけど」

「参考になるわ」

二人は納得していた。

私は、当たり前だと思ってたけど、そうではなかったようだ。話しは一ノ瀬さんのことになった。

「ねえ、一ノ瀬さんはどうだった?」

式の話よりも、一ノ瀬さんのことが後回しとは、心配じゃないのだろうか。

「熱が高くて、さすがの一ノ瀬さんもグロッキー状態よ」

「そうよね」

式の相談に乗りながらも、脳裏では一ノ瀬さんのことが心配だった。

「冷蔵庫に何もなくて……近所にスーパーがあって、適当に買いだめしてきたんだけど、何か作るかって聞いても、欲しいものはないかって聞いても、いらないから帰れって言われちゃって」

「……当たり前じゃない」

「え?」

瑞穂の強い口調に、少しびっくりした。何か間違ったことを言っただろうか。

「美緒は酷いことを一ノ瀬さんに言ったのよ? そんなことくらい分からないの?」

「瑞穂」

渉が険悪になって行く雰囲気に、瑞穂を止めようとした。

私の何がいけなかったのか、さっぱり理解が出来ない。

「一ノ瀬さんは美緒のことが好きなの。体調が悪くて、最悪の時、好きな女が傍にいたら甘えたくなる。辛くて不安になって美緒を帰したくなくなる。一人暮らしで病気になる辛さは、美緒も分かるでしょう? それとも、そんなことも分からない女性なの? 自分だけが可愛そうで、他の人はいいの?」

「酷い……」

「それにまだ告白された返事もしてないでしょう? 美緒は、一ノ瀬さんを都合よく使ってる、酷いのは美緒なのよ?」

「……」

「瑞穂、言いすぎだよ」

「いつかは言わなくちゃいけないって思ってた。でも、傷つく美緒を見たくなかったの、だから言わなかったけど、いい加減目を覚まして現実を見て。眠れない日々を幾つ過ごすの? 一ノ瀬さんを一人の男として見てあげて。美緒、哲也君はもういないの、美緒が泣いても抱きしめてくれる哲也君はいないの、抱きしめてくれるのは一ノ瀬さんなのよ!」

「瑞穂! やめてくれ!」

渉が瑞穂を止めた。瑞穂の言う通り、私は一ノ瀬さんに酷いことをした。

傷付けてしまった、大切な人なのに。大切な人……?

気が付けば、私の頬にはいつもと違う涙が流れていた。

その涙の意味が分からないまま、私は店を飛び出していた。