「いろいろと開けちゃいましたけど、怒らないでくださいね。はいお水」

「悪い」

今度は洗面所に行き、タオルを探す。

一ノ瀬さんは男の一人暮らしだけど、ちゃんと整理整頓が出来ていた。

さすがモデルの経歴を持つ男の人だ。

タオルやコップなど、セレクトさせたものがとてもおしゃれだ。

部屋全体が洗練されたインテリアで、ホテルの一室の様だ。

「一ノ瀬さん、少し拭きますよ」

背中に手を入れ、汗を拭き、前は自分で拭いてもらう。

考えつくことをやりつくして、一ノ瀬さんを無理やり横に寝かせた。

「少しこうしててくださいね」

私は、バッグを持って家を出ると、マンションを出て、現在位置からコンビニかスーパーを探した。

「あった」

幸いにして、マンションの裏にスーパーがあり、私は走った。

スーパーに入るなり、自分が体調を崩した時用にと常備している物をかごに放り込む。

一人で暮らしていると、病気に関しての危機管理能力がぐんと上がる。

買い物を済ませて一目散で帰る。

涼しんでる暇もなく、寝室に向かうと、一ノ瀬さんは静かに横になっていた。

額に手をあてると、一ノ瀬さんが目を開ける。

「桜庭……」

「何か飲みます? それとも食べますか? ヨーグルト、ゼリー、カットフルーツを買ってきました」

「悪いな、けどまだいらないな」

「……無理のし過ぎです」

額にはまた汗が出てきていた。タオルで拭うと、私の手を一ノ瀬さんが掴んだ。

沈黙が続き、私は一ノ瀬さんを見つめた。

「……もう帰れ」

私の手を離して言った。

「でも、こんな状態では……何か作りましょうか? 少し食べないと」

たいしたっ物が作れるわけがないのに、見栄を張ってしまう。何故だか、そばに居たかった。

「いいから、もう大丈夫だ……帰れ」

帰れと言う言葉が、私を拒絶しているみたいで悲しかった。