深い眠りについたと思ったけれど、やっぱり哲也は私に何か言いたいみたいで、夢の中に出てきてくれた。

でも、この日の哲也はいつもと違った。

『美緒』

「哲也!」

哲也の名前を叫び、がばっと起き上がった。懐かしい哲也の声。

「ゆ……め……はあ……」

額に手をあてると、汗がびっしょりだった。

ベッドのわきのスタンドを付けると、哲也の写真を手に取った。

「どうして……どうして拒否したの?」

夢の中の哲也は、私の名前を呼んだ。

夢の中ではいつも何も言ってくれなかった哲也が、名前を呼んでくれた。

私は涙を流して喜んだ。哲也の手を取ろうとしたとき、哲也は首を横に振るだけだった。

いつもの夢は、手を掴もうとすると哲也が消えてしまっていたが、今日の哲也は、私を拒むようなしぐさを見せていた。

一ノ瀬さんにドキドキしてしまった私に、怒っているのだろうか。

ごめん、そんな哲也じゃない。

ベッドサイドにある哲也の写真を見る。

「哲也……お願いもう一度美緒って呼んで」

薄れゆく哲也の声。

危機感と喪失感が包んで、気力が湧かない。それくらいに夢は強烈だった。

禁断の扉を開けてしまおう。

この扉は危険だ。だから自分に厳しくして開けないようにしていた。

スマホを手に取り、震える指で留守番電話のメッセージを開く。

声を聞いてしまうと、喪失感から抜け出さなくなるのが分かっている。

それでも聞かずにはいられない。

『美緒、俺。ごめん、改まって。どうしても今伝えたくて、気持ちを抑えられなくて、電話をしちゃったんだ。バイト中だった? えっと……俺は美緒が好きだ。とっても大好きだ。今日会いたい、会ってちゃんと気持ちを伝えたい。また電話するよ、バイト頑張れ』