家に着いて、乾かして欲しいと思ったが、それはさすがに言えず、私を降ろすと、一ノ瀬さんは帰って行った。

帰りの車内は、他愛のない世間話をしていた。

スタジオ撮影の話は、お互いに避けていたように思う。

「疲れた……」

疲労困憊だった。思い出すのは、一ノ瀬さんの姿。

モデルとしての姿を始めて見た。正直、ドキドキが止まらなかった。

「ごめんね、哲也、違うの。いつもの上司の姿と違うからドキドキしちゃっただけなのよ」

哲也の写真が目に入って、焦ってしまった。浮気じゃない。少しドキドキしただけ。

初めて哲也の裸、と言ってもプールに行く時の水着姿だけど、どきっとした。

その前に肌は合わせていたけど、あの胸に抱かれたんだと、ものすごく厭らしく妄想して、一人顔を赤くしたことを覚えている。

一ノ瀬さんの胸板は、本当に大人の男そのものだった。

私が知っている男は、哲也だけしかいなくて、その哲也も一ノ瀬さんの年齢から言っても子供そのものだった。今だからこそ思えることだけど。

「はっ、違う違う」

頭の中は雑念ばかりで嫌になってしまう。

「疲れているんだわ、お風呂に入って眠ってしまおう」

夏場はシャワーで済ませることが多い入浴も、今日はしっかりとお湯をいれる。

「どうか、明日は普通に顔を合わせられますように」

風呂から出ると、疲れは最高潮に達し、食事もしないまま眠ってしまった。