夢を諦めた。

そうともとれる。私はただ、社会人になれればいいとしか考えてなかった。

哲也がいなくなって人生の夢は見ないことにした。

哲也のいない人生なんて無意味だ。生きていたってしょうがない。

ずっと暗闇にいて、あえて抜け出さないでいた。

「ポスターの出来上がりを楽しみにしているからね。お疲れ様」

「お疲れさまでした」

片付けを終え、メイクとスタイリストはスタジオを出て行った。

「片付けね」

スタジオにセットした飲み物やお菓子を片づけないといけない。

スタジオに戻ると、一ノ瀬さんは唐沢さんと室井さんと話をしていた。

軽く頭を下げ、片づけを始める。スタジオはカメラアシスタントがセットの片付けをしていた。

「お疲れ」

「お疲れさまでした」

話しが終わったのだろう、一ノ瀬さんが私と一緒に片付けを始めた。

見慣れた服を着た一ノ瀬さんを見て現実に戻ると、撮影は異世界の出来事のように思える。

あれはなんだったのだろう。

「事務所に終了の報告を入れますけど、一ノ瀬さんは直帰しますか?」

「さすがに疲れたよ。直帰すると伝えてくれ」

「わかりました」

事務所にいる瑞穂に連絡を入れる。

「お疲れ様、桜庭です」

『お疲れ~』

「何かあった? その後」

『もう、モデルが泣く泣く』

「泣きたいのはこっちよ」

本当だ、泣きたいのはこっちだった。

「いま、片付けまで終わって、二人とも直帰します。ボードに書いておいてくれる?」

『わかった。で、どうだった?』

興味津々の瑞穂は、撮影のことを聞きたいようだが、疲れ果てて会話をする気にもなれない。

「疲れて何も言えない。あ、明日……」

相談があると、瑞穂に言われていた。渉も来るらしい。どうせ結婚式の話だろう。

『よろしく』

「OK」

事務所の電話番も楽じゃないのだ。