それぞれの控室に戻ると、メイクのアシスタントさんが、温かいお茶を淹れて待ってくれていた。

「身体、冷えますよね」

「あ~温かい」

紙コップを両手で持って、暖を取るように身体を丸める。本当に寒かった。

「息をのむほど美しかったわね」

「モデルが来られなかったことが幸いしたかもね」

「桜庭ちゃん、本当に良かったわよ」

「恥ずかしいですよ」

「一ノ瀬さん見た? 現役いけるよね? 勿体ないよね?」

私はモデルの一ノ瀬さんを見ることが出来なかった。どんな風にポーズをとっていたのかも分からない。

「桜庭ちゃんも、ポスターの一ノ瀬さんを見るといいわよ。マジで惚れる」

「そ、そんな感じ?」

「イケメンのモデルはごまんといるけど、一ノ瀬さんの持つ雰囲気とオーラは凄い物があるわ。さすが唐沢浩一が惚れこんだだけあるわね」

こんなにモデルとして需要があるのに、何故、辞めてしまったのだろう。

「なんで辞めたんですかね?」

この人たちなら知っているかもしれないと、聞いてみる。

「噂話でしか知らないんだけどね、一ノ瀬さんは教師になりたかったらしいんだけど、お父さんを病気で亡くされて、大学は奨学金を貰って通ってたらしいわ。それを返済するまで、お金のいいバイトと割り切ってモデルをしたらしいの。それが本人の思惑とは別の方向に行ってしまって、売れっ子モデルに成長してしまったわけ。辞めるに辞められなくなって、続けていたんだけど、華やかなことは苦手らしくて、モデル業が凄くストレスだったらしいわ」

「そうだったんですか」

「奨学金の返済もモデルで売れたお陰で、早くに完済出来て、所属していたシャインプロに就職して、今の地位にいるって言うことらしいわ」

「教師は諦めたんですかね?」

「大学を卒業してブランクがあったから自信がなかったんじゃないのかな?」