「うそ……」

「ごめん」

そう言いながらも、一ノ瀬さんは私が着ているスリップに手を掛けた。

「い、一ノ瀬さん、こんど、絶対に焼き肉奢ってくださいよ。それも高級焼肉」

実際問題、モデルならギャラが出るだろうが、私には出ないはず。

私はこんな恥ずかしい目にあって、損ばかりだ。それくらい言ってもわがままじゃないはずだ。

「よろこんで」

「待ってます」

やっと最後の衣装になった。あと少しで終わる。

「身体が冷たいな。大丈夫か?」

「はい」

一ノ瀬さんは、温かな手で腕をさすってくれた。

「よし! 彼女、亮の上に乗って、あ、身体は全部じゃなくて、半分は横に流して」

「うそ……」

唐沢浩一はどうかしている。私はド素人で、ただの事務員。

唐沢さんが望むものなど出来るわけがないのに。

「桜庭、おいで」

一ノ瀬さんの優しい声に導かれ、私は、指示通りのポーズをした。

私の視線の下に、一ノ瀬さんがいて、手は私の髪を梳く。

さっきまで冗談を言っていたのに、一ノ瀬さんと初めて視線を合わせるポーズで、私達の間に流れる空気が一変した。

視線を外すことなく、私は一ノ瀬さんを見つめ、一ノ瀬さんもまた、私を見つめた。