「どうだろう、嫌なのはわかっているが、少しだけ考えてみてくれないか? 時間をやるから、一人になって考えてみて欲しい」

「一人になっても無駄です。答えは決まってます」

いつになくむきになって拒否をする。当たり前。そんな恥ずかしいこと出来るわけがない。

「一番何が問題だろう?」

「そ、それは」

全部に決まってる。

「は、恥ずかしいです。絵コンテだって知っているし、あの姿で、それに、その……一ノ瀬さんと……絶対に無理です!」

最後の力を振り絞るかのように言った。

「同じ会社で上司と部下と言う関係だ、気持ちは察する。明日からの仕事だって普通に出来るか分からないだろう。それは俺もそうだ。どうだろう、スタジオは人払いをして、桜庭がモデルをしたと言うことは、最小限の人間にだけ知らせる。このポスターのモデルとマネージャー、それと川奈。モデルには唐沢さんに行って、仕事をさせてくれるように頼むことにする。それで口をつぐんでくれるはずだ。川奈はもちろん口外しないだろう。どうかな?」

「……」

優しく話して、包囲網をつくる。

「少し考えさせて下さい」
「いいよ、スタジオで待ってるから」

私は、スタジオを抜けてトイレに入った。狭い空間一人になれる場所としては最適だ。

「もう、嫌だよぅ」

嫌だ、嫌だ、嫌だ。子供の様に駄々を捏ねて、ひっくり返って泣き叫びたい。でもそんなことが出来るわけもなく、冷静になって考える。ふと、瑞穂の行った言葉を思い出す。

「一ノ瀬さん、仕上げて来たわね」

その言葉が浮かんだ。

忙しくて、休みもなく働き、帰宅も遅いはずの一ノ瀬さんが、プロとしてモデルの身体に仕上げていた。

確かに顔などが、シュっとして精悍な顔つきになっている。

そんな一ノ瀬さんの思いを、私の嫌だという気持ちだけで、ダメにしてしまっていいのだろうか。

「背中で、誰だか分からない。絵コンテでは、下半身は掛物がかかっていたし、ベッドの中で寝ていれば後は一ノ瀬さんが全てやってくれる。もう、それが問題なんだってば」