「一ノ瀬さん、代わりのモデルをピックアップしますか? 唐沢さんが来るまでにスタジオに呼んでおいて、オーディションが出来るように。幸いにして、スタジオはシャインプロが一日抑えてますから融通は利くと思います」

「ありがとう、いい考えなんだが、その時間がない。唐沢さんに次のスケジュールが入ってる」

「なんでこううまく行かないの?」

私は苛立った。

一ノ瀬さんを困らせるようなことはしたくない。

今までもトラブル続きで、厄払いをしようかと冗談でも言っていたほどだったのだ。

モデルを引退してもなお、カメラマンの要望がある一ノ瀬さんの仕事に、運は邪魔をしているようだ。

「いつ動くか分からない状態のようだ」

一ノ瀬さんは自分のスマホでトラブルにあった新幹線の情報を見ていた。

「強風じゃなくて、竜巻らしい」

「ここ最近の天候は何が起きるかわかりませんね」

「全くだ。なんでこんな日に……ついてないな」

スタジオの真ん中で、メイクやスタイリスト達と顔を突き合わせるが、いい案が浮かぶわけがない。

被写体本人がどうにもならない状況に遭遇しているのだから。

「おう、どうした、何かあったか?」

声のする方をみると、「ベッドタイムストーリー」の舞台演出をする室井さんだった。

「おはようございます、お疲れ様です」

一ノ瀬さんは室井さんに挨拶をしたあと、今起こっている状況を説明した。

「参ったな。唐沢さんの指示に従うしかないな」

演出家であっても、プロとしての領域が違うものに口出しは出来ない。腕を組んで伸ばした髭を摩る。

「やはり、代替えのモデルを用意した方が」

「いや、唐沢さんは首を縦に振らないよ。モデルを変えるんだったら、別日にするはずだ」

「無理ですよ、ねじ込んでもらったスケジュールなんですから」

「困ったな」

早く唐沢浩一が来ないことには、打つ手がない。そんな時、唐沢浩一がアシスタントとスタジオ入りしてきた。