なんて押し問答をしていると、メイクさんとスタイリストさんがやって来て、挨拶が始まった。

それぞれアシスタントを連れている。

バッグは持ち手が肩に食い込んでいて、いつ見ても重そうだ。

「嬉しい、一ノ瀬さんがモデルなんて」

「わが社の伝説」

「ものすごく楽しみ」

などと一ノ瀬さんを囲んで、盛り上がっていた。そんな時事務所から電話が入った。

「ちょっとすみません、外します……桜庭です、瑞穂」

『大変、モデルが到着できない』

「どういうこと?」

『乗った新幹線が、何かのトラブルで緊急停止をしているんだって。車内放送では、原因を調査中とアナウンスしていて、運転再開はめどが立たず、ですって。焦ってマネージャーから電話があったの。あ、原因が分かった。窓ガラスが割れたみたい。近くに一ノ瀬さんいる?』

私は、話をしながら一ノ瀬さんを見た。一ノ瀬さんは何かを悟ったらしく、私の傍に来た。

「一ノ瀬さん、モデルの乗った新幹線が、強風で飛んできた何かで窓ガラスが割れてしまい、緊急停止をしているようです。瑞穂からです」

私のスマホを一ノ瀬さんに渡す。

「一ノ瀬だ、詳しく」

瑞穂とのやり取りを一ノ瀬さんの隣で聞く。

瑞穂は一ノ瀬さんの指示を仰いでいる。暫く話した後、天を仰いで大きくため息を吐いた。

「予定を変更しますか?」

「いや、唐沢さんのスケジュールが無いんだ。ねじ込んでうちを入れてもらったようなものだから、今日以外はNGだ」

「困りましたね」

「まだ、時間はある。様子を見よう」

「はい」

まだ時間はあると言ったが、あと一時間もすればカメラマンの唐沢浩一の入り時間となる。

それから準備をして撮影開始だ。

もって3時間。きっと無理だ。私が出来ることはなんだろう。