怒涛の日々を過ごして、やっとポスター撮りの日を迎えた。

シャインプロはお盆休みが無いため、事務所スタッフが順番に夏休みを取っていたが、私と瑞穂はこのポスター撮りが終わるまでは取得できないでいた。

事務所をあげて宣伝し、公演する舞台は特別な物になる。

役者はもとより、スタッフの気合も違う。営業はスポンサー探しに奮闘して、美術や衣装も素晴らしい。打ち合わせの回数も大変な物で、差し入れを何度買いに行ったことか。

その気合は、一ノ瀬さんも動かしたのか、カメラマンの指名とはいえ、ポスターのモデルとなるのを了承したからだ。

どうしても唐沢浩一にポスターを撮ってもらいたかったという一ノ瀬さんは、了承せざるを得なかったのだ。

何度も「自分よりもこれから売り出したいモデルを起用したい」と言ったそうだが、唐沢浩一が首を縦に振らなかった。

午後からの撮影だが、私は落ち着かない。

出発の時間を考慮して、少し早めのランチを済ませて、事務所のソファで瑞穂とコーヒーを飲んでいた。

「いいなあ、一ノ瀬さんの撮影を見られて」

「代わる?」

「そんな気もないくせに」

瑞穂は私の心が読める天才だ。瑞穂が交代して欲しいと言ったら、どうしていたのだろう。心にもないことを言ってしまう私は、本当に嫌な女だ。

「撮影を見ていられるの?」

「え……?」

「一ノ瀬さんの撮影。相手はモデルと言っても……仕事だと分かっていても、素人の美緒には割り切れない感情があるんじゃないの?」

「それは……」

大丈夫よと、笑って返せなかった。

絵コンテを見ただけで、刺激的で目をそらしてしまいたいものだった。

普通ならそんなことはない。そこまで官能的でもない。撮影の日が近づくにつれ、モヤモヤが大きくなっていた。