「お疲れさまでした」

「お疲れ」

「コーヒーを淹れましょうか?」

「いや、水がいいな」

「分かりました。……あの……」

「ん?」

「す、すみません……寝ちゃって……」

恥ずかしいのと上司の前で居眠りした気まずさと入り混じって、深々と頭を下げた。

「いや、つまらない講義を聞くなんて、子守歌を聞かされているみたいだよな。そのおかげで可愛い寝顔が見られて良かったよ」

「……!」

ちょっと待って、顔が熱くなって赤いのが自分でも分かる。信じられない、何を言ったのだろう? 思考が止まる。

「来週のポスター撮りだが、備品を車に積み込むのは、前日の夕方になりそうだ。忘れ物がないように、再度チェックを頼むよ」

「……」

人を混乱させておいて、普通に仕事の指示をするなんてありえない。いつもは一ノ瀬さんの味方だけど、今は違う。本当に恨めしい。

「なんか、顔がへん」

「な、なによ」

デスクに戻るなり、瑞穂が意地悪く言う。そんなに顔に出ているだろうか。思わず、化粧ポーチから鏡を出してみてしまう。

「何かあったな?」

「あるわけが無いでしょう!」

むきになって瑞穂に言ってしまい、さらに怪しい目で見られてしまった。

午前中から調子が狂ってしまい、昼も食べることが出来なかった。

家に帰るころには、ぐったりとして、深い眠りについてしまった。

こんな時こそ、哲也に会いたかったけれど、哲也は最近出てきてもくれない。

本当に心配でならない。最後があんなに悲しい顔なんて絶対に許せない。私の願いは届くのだろうか。