今日の講習は二回にわたって行われる。参加者はそれぞれの会で20名。これを数日間にわたって開催される。

机上には講習で使用する資料とお茶を置き、プロジェクターの準備をする。

「助かるわ、しーちゃん」

「とんでもないですよ、私も一気に芸能人が見られてちょっと浮かれてます」

素直な表現で、好ましい。誰だって芸能人に会いたいに決まっている。

素直な所が彼女の良さだ。そんなところも顔に出ていて、しーちゃんは歴代のバイトの中で、一番人気。

人柄も良く、評判がいい。一ノ瀬さんが面接をしたのだけど、見る目がある。

一番どこが気に入ったのだろう。やっぱり第一印象は顔だから、顔なのかな? それとも面接で性格がいいのがすぐに分かって、気に入ったのな。

どうしたんだろう、しーちゃんに嫉妬している見たいだ。なんて下世話なんだろう。

「実は、私も。長いこと勤めているけど、滅多に事務所にはこないし、楽しみよね」

「そうですよね」

「用意してくれたお菓子も余るだろうから、あとでいただきましょう」

「はい」

私は、講習に付き合わないといけない。午前中はまだしも、昼を食べた後の午後が問題だ。

いつも以上に哲也に起こされる回数が増えて、睡眠不足なのだ。

私に背を向ける回数が増えて、本当に悲しい。表情も、大好きな笑い顔が見られるまでもう少しのところだったのに、今は悲しい顔ばかりだ。

笑顔が見られる状態になるまで何年かかったと思っているのだろうか。本当に哲也は冷たい。

「準備は出来た?」

人数の確認をしていると、一ノ瀬さんが顔を出す。

「ええ、20人分、きっかり配置しました」

「わかった。受付なんかしないから、来た順から席に座ってもらって。揃わなくても時間通りに始めるから」

「わかりました」

何か言いたそうだが、何も言わない。

一瞬の沈黙があって、一ノ瀬さんは会議室を出て行った。

普通にしてそうで、実は一ノ瀬さんも気まずいのではないだろうか。

いくら超人でも、普通にしているのはやっぱり大変なんだ。

早く返事をしなくてはと思っているのに、私はなぜ、すぐに返事をしなかったのだろう。

一ノ瀬さんがじっくり考えて返事をして欲しいと言っても、自分の答えが決まっているならすぐに返事をすれば良かったのだ。

自分の意思、身体なのに、都合よくは動いてくれない。頭と心は違うことを思っているようだ。どうしてだろう。