瑞穂と駅方面まで一緒に歩き別れると、その近くにあった洋食レストランに入った。

瑞穂を加えて一緒にランチや同僚達との会食で一緒に食事をしたことはあるけど、二人と言うのは初めてだ。とても緊張する。ランチの気軽さがないのが、夜の悪い所だ。

私は、生姜焼き定食を注文し、一ノ瀬さんはチキンソテーを注文した。

改めて向かい合うと、なんだか緊張する。

「腹が減った……」

「いつもは帰ってから食べるんですか?」

「いや、途中で食って帰ることが多いな、料理はからっきしダメだ」

それは、この前のぎこちなく食器を洗う姿でなんとなく分かった。

「桜庭も帰ってからメシか?」

「いえ、あの……お恥ずかしい話、私も料理は苦手で」

「仕事から帰って作るのはおっくうだよな」

「ええ、まあ」

少し恥ずかしいと思うのは、一ノ瀬さんに料理が出来ない女と思われたくないからなのか、嘘でも出来ると言えば良かったのに、正直者だ。

大学の同級生たちとキャンプに行くと、男子が張り切る。

よって女子は何もしなくていいという構図が出来上がる。

そして、私のお母さんは料理が好きで、誰にも作らせない。

こうして、何も出来ない娘の私が出来上がった。お母さんは、私が台所に立って包丁を持つと不器用でイライラするんだと言った。

和やかに会話が弾んでいた時、一ノ瀬さんのスマホが鳴った。

「なんか嫌な予感だな。もしもし一ノ瀬だが」

相手はタレントの若狭あゆみのマネージャー。

気取ったところがないのに、可愛くてスタイルがよく、女子受けがよいと、インスタのフォロアーが事務所所属タレントの中で一位になった。

その若狭あゆみがなんとカンピロバクター腸炎になったとのことだ。

「参った……レギュラーを持っている子に限ってこういうことになるんだよなあ」

一ノ瀬さんは腕を組んで天井を見た。

「カンピロバクターって相当苦しいですよ、大丈夫でしょうか?」

「救急で病院に行って、入院は確実らしい。詳細は事務所に連絡を入れるようにしておいたんだが。まいったな、今日こそは早く帰れると思ったんだが……」

はあっと大きなため息をついた。

仕事が好きと言っても、連日休みなく働けば、早く家に帰りたくなるのも無理はない。

業界はカレンダー通りに進まない物なのだが、いくら何でも一ノ瀬さんが気の毒だ。

「事務所でコーヒーを淹れますから、引き揚げましょう」

「そうするか」

支払いは一ノ瀬さんがして、私は、恐縮しながらお礼を言った。