「美緒は?」

「身体のメンテナンスにでも行こうかな?」

「そっか」

準備が出来たことを一ノ瀬さんに伝え、契約書の続きに取り掛かる。

なんて忙しいんだ。当然事務方はまだ他にいるけれど、部署が違うのだ。

総務が一番忙しいのに、人がいない。ヘルプを頼みたいが、他も手一杯でとてもじゃないが私たちのヘルプは出来る状態じゃない。どこもかしこも人手不足なのだ。

黙々と講習会のスケジュールと出席者を照らし合わせて契約書を作成していたら、あっという間に終業時間になっていた。

「私は、残業しないわよ、デートなんだから」

「週末デートしたばかりでしょう?」

「毎日だって会いたいのが好きっていうことじゃないの?」

瑞穂はつんとした顔で言った。

「まあ、確かにそうだけど……ねえ、渉とご飯食べるの? 私も一緒に行きたい、お腹が空いた」

昼もデスクでテイクアウトのお弁当を食べて、楽しみなおやつは我慢して仕事をしていた。

お腹が空いてしょうがない。

「え~嫌だ~」

「なんでよ」

「デートだもん」

当たり前でしょと言い、私は拒否された。ひどい。

「デートか?」

「あ、一ノ瀬さん、美緒と食事に行ってやってくださいよ。お腹が空いてしょうがないんですって。私達のデートを邪魔したいくらいに」

「ちょっと!!」

何を言い出すのかと思えば、一ノ瀬さんに食事に誘えなんて。仮にも上司だ。

「俺も今日はまともな食事をしていないからな、どうだ、何か食べに行くか? とは言っても、まだ仕事が残っているから、近所だが」

「いいじゃない、行きなさいよ。はい、決定」

「ちょっと」

「いつもお弁当買って帰るだけなんでしょう? ごちそうしてもらいなさいよ」

また図々しいことを言いだす。自分のことじゃないからって、いいかげんだ。

自分は着々と帰り仕度をしている。

「桜庭、行くぞ」

「え、あ、はい」

瑞穂を睨むと、ウインクで返した。