「お腹がいっぱい」

「ああ、食ったな」

早食いは職業病。入社当時にのんびり食べていたら、一ノ瀬さんが言った。

「この業界、世間と同じように1時間の休憩があると思ったら大間違いだぞ。早く食べる癖をつけろ」

喉につかえたり、むせたりしながら、段々と早く食べることが出来るようになった。

食べたら眠くなる。人間の習性ともいえる。二人でぼーっとしていたら、いつの間にか一ノ瀬さんが眠ってしまっていた。

「疲れているのね」

役者がいたメイクルームに行くと、ちょうどいい大きさのバスタオルがあった。それを持って戻る。

腕を組んで眠っている一ノ瀬さんにバスタオルをかけ、隣に座った。

すると、一ノ瀬さんの身体が傾き始めて、頭が私の肩に乗った。

間近で見る顔は、本当にスッキリとした綺麗な顔だ。上から見ると、鼻が高くてとても綺麗。

「疲れているんですね」

腕の時計を見ると、あと30分ほどで制作発表が終わる。30分もあれば、昼寝としては十分だろう。

哲也もどこでも眠った人だった。睡眠不足じゃなくても、乗り物に乗れば眠って、公園に行っても眠って、映画館でも眠った。

「寝る子は育つからね」

プンプン怒る私に、いつもそう言った。一ノ瀬さんを見ながら、哲也を思い出すなんて。似ているところはないのに、なんでだろう。

そろそろ終わりが近づいたのか、廊下が騒がしくなった。