「いつも悪いな、休日を潰してしまって」

不意に一ノ瀬さんが言った。

「とんでもないです。しっかり代休は取ってますし、悪いなんて」

「休日は用もあるだろう」

「……私は、出かけたりしませんし、遊びにも行きませんから」

「……そうか」

哲也がいた頃、週末はいつもどこかへ出かけていた。遊園地、キャンプ、プール、海、山、映画、ショッピング……。

行った所はない位に出かけていた。同じ場所じゃつまらないと言うのが哲也の口癖で、本当にいつも新しいスポットに行っていた。

平日はバイトに明け暮れ、バイト料を私との付き合いに回す。

そういう日々を過ごしていた。哲也がいなくなった今、私の興味をそそるものはなく、疲れた体を癒す為に、ゆっくりと自宅で時間を過ごすようになった。

制作発表は約一時間の予定だ。毎回、予定時間で終わることはない。

「ずいぶん残ったな」

目の前に広がる食べ物の数々。

「事務所に持って帰りましょう。事務所に行けば誰かいますし、分けて持って帰ってもいいですよ。一人暮らしも多いことですから」

「そうだな」

「少し食べますか? お腹がすきませんか? 記者会見中ですから、今がチャンスですよ」

「ああ、そうしよう。腹が減った……空きすぎて動けない」

「持ってきますよ」

「悪い」

一ノ瀬さんは休みを本当にとっていない。いつ帰って、いつ眠っているのだろう。タフだけど、体が心配だ。

綺麗で美味しそうなケーキは持ち帰りにして、今は食事をしよう。お皿に食事系の食べ物を盛り付け、一ノ瀬さんに持って行く。

「おお、うまそうだ」

「いただきましょう」

「いただきます」

二人して、無言で食べていた。

私も自宅から出勤したのだが、明け方に目が覚め、滅多にない二度寝をしてしまった。慌てて支度をして、朝食のみならず、出勤前の腹ごしらえもしてこなかったのだ。

差し入れは、こだわりのある物が多く、老舗と呼ばれる名店の味も楽しめる。こういう機会じゃないとありつけない食事だ。

出演者の戻りを気にしながら、二人で黙々と食べた。