『一ノ瀬さんのマンションの下にいます』

何だって? 

「そこを動くな、今すぐに行くから絶対に動くんじゃないぞ」

俺はベッドにスマホを投げ、急いで着替える。

帰ってきた。俺に何か伝えたいことがあるのかもしれない。だが、俺は決めた。桜庭に無理な気持ちの押しつけは止めようと思っていたが、それは間違いだった。

着替えをすませ、再びスマホを耳にあてると、桜庭に繋がっているか確認する。

「桜庭、そこにいるよな」

『います。どこにも行きません』

しっかりとした口調で返事をする。玄関ですでに靴を履き、鍵を持つ。

エレベーターがくるのも待っていられない。うろうろとするしかない。

「ゆっくり休めたのか?」

「ええ、ゆっくり……ごめんなさい、心配をかけてしまって」

謝ることなど何もしていない。無事に帰って来てくれさえすればそれでいい。

「無事ならいいんだ」

「聞いて欲しいことがあるんです」

エレベーター乗り込み、桜庭へと距離を縮めている。

「……聞くよ」

何を言われるか、正直不安だ。だが、聞かずには進めない。

『私は……あなたを好きになってもいいのでしょうか……?』

エレベーターが開き、桜庭の姿が見えた。走って距離を縮める。

「一ノ瀬さんを……!」

捕まえた。