「いったいどこにいるんだ」

家に帰っても気になるのは彼女のことばかりだ。

スマホを手に取り、桜庭のアドレスに電話をしてみる。

「繋がらないか」

入社をしてから今まで、毎日のように顔を合わせていた。

人手不足になっていくと、桜庭と一緒に仕事をする機会が増えていった。

手の届くところに桜庭がいる。そんな感じだった。

今、逢いたい。逢いたくて仕方がないが、それも叶わない。

思うことは一つ。

泣いてないだろうか、眠れているだろうか。

泣いているのなら、その涙を拭ってやりたい。

眠れないのなら、胸に抱き、眠るまでそばにいてやりたい。

「桜庭……」

桜庭が俺に連絡していた休みが終わろうとしている。

「早く帰ってこい」

ただそれだけを願う。

あのときの桜庭の感触、香りがまだ残っている。

桜庭の存在が、これほどまでに大きいとは思いもしなかった。唐沢さんの見る目を認めるしかない。

「寝るか」

舞台の稽古は順調に進んでいる。

トラブル続きだったシャインプロも落ち着いてきている。

久しぶりに早く帰れたのに、いつの間にかこんな時間になっている。

スタンドの灯りだけにして、ベッドに潜り込むところで、スマホが鳴った。

「桜庭……!」

スマホの液晶画面に、桜庭の名前が表示される。

あわてて取ると、電話の向こうに桜庭の声が聞こえた。

『もしもし……』
「どこにいる、いま、何処にいるんだ」

焦っているのが自分でも分かる。寝室をうろうろとしながら落ち着かない。

『一ノ瀬さん、聞いて欲しいことがあるの』

電話の声は落ち着いている。でも、元気がないように感じる。

「体調が悪いとか、怪我をしたとか、大丈夫なのか!?」

『私は、大丈夫、元気です』

「何処にいるんだ、何処にいるか先に言いなさい」

元気と言っているが、信じられない。つい声を荒げてしまう。