急いで自宅に帰ると、服のままバスルームへ飛び込む。自宅につく頃には震えるほど体温が下がっていた。

湯船につかったのはいいが、暖まるまで時間がかかった。

真夏だというのに、エアコンはつけなくてもいいほどの体感だった。

翌朝起きると、身体がいつも以上に怠く、熱っぽい。

「まいったな」

体温計で測ると、微熱ながらも発熱していた。

「休めないし、桜庭は気になるし」

身体と気持ちが一緒になってくれない。

だが、冷静になって考えれば、休むことを優先した方が良かった。

もっと部下を信用して、仕事を任せると言うことをすればよかったのだ。

無理して出勤した結果、早退という恥ずかしい事態になってしまった。

桜庭と川奈の説得で、帰るという選択をした。

「乗って下さい、送っていきますから」

「ありがとう」

タクシーに乗せられた辺りから、朦朧とする意識のなか、桜庭が隣にいてくれるという安心感。

男は、本当に弱くて、大げさだ。たかが熱くらいで重病患者のようだ。

自宅マンションに着くと、安堵からか、もう力が入らない。桜庭の支えでベッドに倒れ込むように横になる。

桜庭がなにやら言っている。それに、バタバタと動きまわっている。

汗をかいている俺を着替えさせ、水を飲ませて、何か必要な物はないか聞く。

“お前がいてくれれば何もいらない”

弱っている今、俺は何を言い出すかわからない。

「いいから、もう大丈夫だ……帰れ」

それを言うのが精一杯だった。