「もっとお飲みになります?」
空になったグラスを見て聞いてみると、
「おや、あなたは」
「こんにちは」
お墓参りに行くと、よくこのご住職に出会う。
簡単な挨拶をするだけだが、今日は法要で初めて言葉を交わす。
「いつも熱心にお墓参りをなさってるお嬢さんですな」
「いえ……」
「故人も喜んでおられる」
「そうでしょうか」
「……人は生きていくうえで様々な苦しい体験をする。その中に死ぬことがある。その人と関係が深ければ深いほど、悲しみも深い。人間はいずれ死を迎える。だが、お嬢さんは生きている苦をずっと背負っているように見える。それでは故人が喜ばない。生きることは苦しいこと、修行じゃ。だが、自分で追い込んではいけない。故人は、人生を前向きに力強く生きていくことを望んでいるのだよ」
「前向き……」
「拠り所を失ってしまうと生きていくのが難しい。だが、お嬢さんはこうして今をちゃんと生きている。それは、故人がそうならないように導いてくれているんだよ。わかるかい?」
ずっと何年もお墓参りをしている私を見てきたのだろう。
だから、私の今を説いてくれている。涙が流れた。私の後ろでは哲也のご両親が一緒にご住職の話を聞いている。区切りをつけなさいと言っているのだろうか。私にそれは無理だ。
一時間ほどの法要を終え、ご住職は帰って行った。その後は精進料理でご両親と食事をしたが、胸が一杯だった。
「美緒ちゃん」
おじさんが話しかけた。
「はい」
「美緒ちゃんに好きな人はいないのかな?」
「おじさん!」
私は思わず大きな声を出してしまった。
人を好きになることはいけないことじゃない。でも私には哲也以外は考えられない。
「ずっと言わないでいた私達の罪は深い。哲也はもうこの世にはいないんだよ。分かっているよね? 美緒ちゃんには、哲也の歩けなかった人生を、哲也を心に留めながら歩んで行って欲しいんだ。忘れろとは言わないよ? ご住職が言うように、哲也は美緒ちゃんに力強く生きて行って欲しいと思ってるよ」
「……もう、来るなと言うことですか?」
「違うわ、美緒ちゃん。違うのよ。私達も美緒ちゃんが来てくれるのはとっても嬉しいの。でもそれとこれは別の話。若くて美しい今をもっと楽しんでほしいの。哲也の性格を分かっているでしょう? そんな美緒ちゃんは望んでいないはずよ」
もう、涙しか出てこなかった。ご両親が悪いんじゃない。
お二人だって、このことを私に言うのに、きっと言い出しにくかったに違いないのだ。
辛い目に合わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
でも私には、ご住職の言葉も、ご両親の言葉もまだ響かなかった。
空になったグラスを見て聞いてみると、
「おや、あなたは」
「こんにちは」
お墓参りに行くと、よくこのご住職に出会う。
簡単な挨拶をするだけだが、今日は法要で初めて言葉を交わす。
「いつも熱心にお墓参りをなさってるお嬢さんですな」
「いえ……」
「故人も喜んでおられる」
「そうでしょうか」
「……人は生きていくうえで様々な苦しい体験をする。その中に死ぬことがある。その人と関係が深ければ深いほど、悲しみも深い。人間はいずれ死を迎える。だが、お嬢さんは生きている苦をずっと背負っているように見える。それでは故人が喜ばない。生きることは苦しいこと、修行じゃ。だが、自分で追い込んではいけない。故人は、人生を前向きに力強く生きていくことを望んでいるのだよ」
「前向き……」
「拠り所を失ってしまうと生きていくのが難しい。だが、お嬢さんはこうして今をちゃんと生きている。それは、故人がそうならないように導いてくれているんだよ。わかるかい?」
ずっと何年もお墓参りをしている私を見てきたのだろう。
だから、私の今を説いてくれている。涙が流れた。私の後ろでは哲也のご両親が一緒にご住職の話を聞いている。区切りをつけなさいと言っているのだろうか。私にそれは無理だ。
一時間ほどの法要を終え、ご住職は帰って行った。その後は精進料理でご両親と食事をしたが、胸が一杯だった。
「美緒ちゃん」
おじさんが話しかけた。
「はい」
「美緒ちゃんに好きな人はいないのかな?」
「おじさん!」
私は思わず大きな声を出してしまった。
人を好きになることはいけないことじゃない。でも私には哲也以外は考えられない。
「ずっと言わないでいた私達の罪は深い。哲也はもうこの世にはいないんだよ。分かっているよね? 美緒ちゃんには、哲也の歩けなかった人生を、哲也を心に留めながら歩んで行って欲しいんだ。忘れろとは言わないよ? ご住職が言うように、哲也は美緒ちゃんに力強く生きて行って欲しいと思ってるよ」
「……もう、来るなと言うことですか?」
「違うわ、美緒ちゃん。違うのよ。私達も美緒ちゃんが来てくれるのはとっても嬉しいの。でもそれとこれは別の話。若くて美しい今をもっと楽しんでほしいの。哲也の性格を分かっているでしょう? そんな美緒ちゃんは望んでいないはずよ」
もう、涙しか出てこなかった。ご両親が悪いんじゃない。
お二人だって、このことを私に言うのに、きっと言い出しにくかったに違いないのだ。
辛い目に合わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
でも私には、ご住職の言葉も、ご両親の言葉もまだ響かなかった。