控え室に彼女を送り、自分の支度を始める。

シャワーを浴び、セットした髪を洗い流す。

シャワー室の鏡を見て、会社員からモデルへとリセットする。

自分で言うのもなんだが、最近にないほど、体を絞った。

食事やトレーニング、忙しいさなかをぬって良く頑張ったと思う。

「一ノ瀬さん、何年ぶり?」

バスローブを来て、化粧台前に座りメイクに聞かれる。

「10年……振りかな?」

「そんなに経ちますかね? 今だったら、渋いモデルでいけるのに、もったいないですね」

「俺は会社員が向いてるよ」

髪を乾かしてもらい、ブローをする。

メイクも久しぶりだ。仕上がっていく自分を鏡で見て、気持ちをさらにいれていく。

だが、本当に緊張している。まさか相手が桜庭になろうとは。

実の所、本番では桜庭にスタジオから出ていてもらおうと思っていた。

告白した女を前に、モデルとはいえ、違う女を抱けなかった。感情を操れるほど、俺はプロじゃない。

「彼女、震えてるって」

「そうだろうな」

「一ノ瀬さんも部下だから心配でしょう?」

「まあな、アシスタントにもしっかりと口止めをしておいてくれ、そこは頼んだよ」

震えて泣きそうな顔の桜庭を、容易に想像が出来る。

そばに行って抱きしめてやりたい。今にも控室を出て飛び出していきそうで怖い。

「守秘義務は守りますよ、安心して」

「それから……」

「撮影時は、外にでるんでしょ? 分かってますよ」

「ありがとう」

鏡に映った自分を見て、イメージを作り上げる。

「う~ん、いい顔。いい男をさらにいい男に格上げすると、好きになっちゃいそう」

良く知るメイクが揶揄う。

「本気じゃないだろ」

本気よと言って、舌を出す。

冗談を言っていたメイクも、俺が鏡を見て集中すると、周りは部屋から出ていった。

うまく桜庭をリード出来るだろうか。まったく自信がない。