「唐沢さん、ダメですよ、彼女は素人で社員です。上司としても許可できません」

最後の悪あがきで言って見た。

「唐沢さん、それは無理ってもんですよ」

室井さんも同じようなことを言ってくれる。だが、決定は覆らず、

「俺は、決めた」

ジ・エンド。決定だ。

「桜庭と話をさせて下さい」

「わかった」

放心状態の桜庭を、スタジオの外に連れ出す。

「嫌です、私。モデルじゃないし、そんな・・・・・・困ります」

当然の答えだ。俺は板挟みだ。制作する側の部長として、先に進めたい。

だが、部下側の部長としては、部下に無理な仕事はさせたくない。

そして、桜庭に思いを寄せる男としては……男としては、答えがでない。本当に複雑だ。

「分かってる、だが、唐沢さんは言い出したら聞かないんだ」

「絶対に嫌です」

当たり前だが、頑なに拒否をする。

「どうだろう、少し時間をやるから一人になって考えてみて欲しい」

「無駄です、答えは決まってます」

「一番何が問題だろう?」

俺との絡みに決まっているが、なんとかしたい。

「恥ずかしいです、あの姿で、それに、その……」

やっぱりそうだ、俺との撮影だ。絵コンテを知っている桜庭は尚、嫌だろう。

このことは厳密に処理をする、口外は堅く禁止し、撮影は最小限の人間だけにすることを約束して、なんとか考える所まで持っていった。

「少し考えさせて下さい」

「いいよ、スタジオで待ってる」

とぼとぼと歩いていく桜庭の背中。本当に抱きしめたい。

本人はもう拒否できないことを分かっている。それでも受ける覚悟が必要だろう。