「……一旦、持ち帰らせて下さい」

「まあ、俺の答えは変わらないが、待ってやるよ」

これには頭を抱えた。

俺一人で判断することは出来るわけもなく、社長に相談するしかない。

「いいんじゃん? 一ノ瀬がやったらいい」

あっさりと答えが返ってきた。社長も唐沢さんと同じように復帰を望んでいた側だった。

「二足の草鞋を履けばいい」それが口癖の人に相談した自分がバカだった。

相談する人を間違えていた。俺は仕方なく、役員に相談した。

「舞台を成功させる為に手段は選んでいられない。所属のモデルは唐沢氏にとって魅力がなかったんだ。モデル達も文句はないだろう。お受けしなさい」

もう、決定だ。後は俺次第だ。

やはりネックはその構図だった。演出家の室井さんがかいた絵コンテは、舞台の内容と確かにマッチしているが、刺激的だった。

見ているこっちが照れてしまう。悩んでいても時間が過ぎて行くだけで、川奈にも、

「モデルが決まらないと、予定が立てられません」

ときつく言われてしまっていた。

「桜庭には見て欲しくないな」

モデルとしての意識より、個人としての思いの方が強かった。

「唐沢さん、よろしくお願いします」

くだくだしていてもしょうがない。唐沢さんに返事をした。

しかし、時間はどうして俺に味方をしてくれないのだろう。

トラブル続きだった為に、契約書の追加事項とコンプライアンス講習をすると上層部が言い出した。

若い頃と違い、トレーニングの成果がでるのに時間がかかる。撮影の日程はずらせず、俺は焦る。

「仕方がない、これだ」

プロテインを飲み、高たんぱく質の食事をとる。

大好きな米を絶ち、ひたすら筋肉に良いものだけを食べる。

疲れた体にむち打って、深夜に筋トレ。

体はぼろぼろのような気がする。自分の体だけはどうか裏切らないでくれと、祈るばかりだ。