「お願いしますよ、唐沢さん」

事務所をあげて取り組んでいる舞台「ベッドタイムストーリー」。

ポスターは舞台の宣伝に大切なアイテムの一つだ、絶対に一流のカメラマンに撮ってもらいたい。

「お前の頼みだが、体が空かないんだよ」

「忙しいのは分かってます、そこを何とかしてもらいたくて頼んでるんです」

海外の仕事が多いカメラマンの唐沢さんは、俺のモデル時代に一番多く仕事をしたカメラマンだった。

今回の舞台は、絶対に唐沢さんに撮ってもらいたかったのだ。

「お前が一番俺のことを分かっていると思うが? 俺は、自分から撮りたいと思った仕事しかしない。今の俺は人物に興味がないんだ、お前が辞めてからな」

モデルを引退するとき、最後まで引退しないように説得をしたのが唐沢さんだった。

「お前は、世界を狙える」

将来の安定を考えていた俺は、モデルで一生食って行くという覚悟は全くなかった。

一流のモデルを目指している者に対して、申し訳ない。

「そこを何とかしてくれませんか? お願いしますよ、唐沢さん」

「じゃあ、条件がある」

「なんでしょう? 出来る限りのことはさせていただきます」

「お前がモデルになれ、亮」

この答えに到達するまで、何回も依頼してきた。

ずっと断り続けられていたが、少し前進した結果の要求だった。

統括部長として、進行を遅らせたくない。だが、所属のモデルを差し置いて、俺がメインをとれる訳がない。