「びっくりし……桜庭?」

安心するような優しい手が、髪をかきあげる感触があった。びっくりして手を掴むと、桜庭の手だった。

「すみません」

申し訳ない顔をしていた。

部屋を出ていこうとしていた桜庭を、俺は掴んだ手を離さずにいた。

疲れていたせいもあったが、傍にいて欲しかった。

「少しだけ、ここにいてくれないか?」

情けなくもお願いをしてしまった俺に、桜庭はベッドの縁に座ってくれた。

「瑞穂が、モデルがどうなっているのかって。私もですが、予定が立てづらくて」

何れ言わなくてはいけなかった。言い出しにくくて、先延ばしにしてしまったが、仕事が滞ってしまってはけいない。

「俺なんだ、そのモデル」

桜庭は驚いて腰を抜かしたのか、ずり落ちそうになった。

とっさに掴んでいた手を引き寄せた。

抱きしめ、キスをしそうになった。それくらいの距離で桜庭の顔があった。

上司なんだと、俺の中の理性が急ブレーキでそのさきの行動を止めた。

「見てみたいです」

自分の写真をわざわざ見せる奴がいるか。恥ずかしい。

職業としてやってきたことに後悔はないが、桜庭にはあまり見せたくない過去だ。

「……桜庭だけに」

口からはそんな言葉が出ていた。