「じゃ、悪いけど手配をお願いできる?」

「分かりました」

フットワークの軽い彼女は、さっそく買い出しに出かけて行った。

「頼もしいわね、本当に」

「今の時間が一番暑いのに」

若いっていいわと、瑞穂はすっかりおばさん発言だ。

「そうそう、この舞台の制作発表だけど、一ノ瀬さんが手伝いよろしくって」

「え~! 先月も休日出勤したのよ。今度はデートの予定が入っているからダメ」

やっぱり。そう言う答えが返ってくるとは思っていた。

弟が社会人になってからは、週末にしかデートが出来なくなったと瑞穂が嘆いていた。

週末にデートが出来れば十分だと思うのだが、瑞穂は毎日でも会いたいらしい。

「瑞穂が断ったら、私と一ノ瀬さんの二人しかいないじゃない。二人じゃ大変なのよ?」

「一ノ瀬さんは美緒と二人の方が良いと思うけど?」

「……一ノ瀬さん? どうして?」

何を言っているのか理解が出来ない。首を傾げる私に、瑞穂はとにかく休むと言った。

瑞穂が出勤しないことを一ノ瀬さんに報告に行く。

「やっぱりな」

瑞穂が断ると思っていたのだろう。ダメもとで聞いた感じがある。

確かに休日出勤は強制じゃないけど、協力してくれてもいい。今度弟に言っておかなくては。

「二人じゃ無理ですよ、しーちゃんに来てもらいます?」

「いや、彼女には既に聞いたんだ。大学のゼミで集まりがあるとかで無理だそうだ。学生だし、学業が優先だ」

「そうですか」

「現場に行けば、うちのスタッフもいるし、なんとかなるだろう」

「分かりました」

現場のスタッフと言っても、メイク、スタイリストなど常に役者についていて、裏方にいない人達ばかりだ。

何とか手伝って貰えそうなのは、マネージャーくらいだ。本当に人手が欲しい。

「一ノ瀬さん、求人しましょうよ」

「門脇のように働いてくれればいいが、大抵は芸能人に会えると言う浮かれた気持ちだからな。長続きしない。暫くバイトは募集しない予定だから悪いが、新卒を待ってくれ」

「新卒も長続きしません」

新卒も現代っ子はシビアな考えを持っていて、仕事よりプライベートを優先し、仕事量に見合わない給料であれば、すぐに辞めていく。

お金だけじゃないやりがいがあるのにと私は思うのだが、そう言う考えが既におばさんなのだろうか。

「悪いな、いつも桜庭に負担をかけて」

「とんでもない、私こそ休みを自由にとってしまっているんですから、感謝してます。休日出勤位はなんでもありません。別に用もないですし」

「そうか」

「話の流れで悪いんですけど、制作発表の代休、先に取らせていただいても構いませんか?」

「ああ、構わないよ」

「いつもすみません。後で申請書を出します」

「わかった」

哲也の七回忌法要がある。もう7年、ううん、たった7年だ。

いや違う、私には昨日のことのように思えて仕方がない。

毎年やってくる夏。私は大嫌いだ。