「あぁー、修兄、焦ってちゃんとフォローしてないんだね」
杏花さんは、ちょっと眉をしかめて言った。
私は、ふるふると首を振る。
「違うよ、早く結婚すること、嫌な訳じゃないの。
ただ……修一さんは『都の好きにしていいよ』って言ってくれるんだけど、そう言われると、答えられなくて困っちゃうの。
だって、つい1ヶ月前までは想像もしたことなかったんだから。自分の結婚式なんて」
一口、紅茶を飲む。
カップを覗くと、あと一口分くらい残ってる。
また少し注ぎ足して、改めて杏花さんを見た。
今の私は、多分必死な表情をしていると思う。
今日は、これを聞くために杏花さんを呼び出したと言っても過言ではない。
「そういう、夢とか希望みたいなものが全くない場合、どうしたらいいと思う?
あんまり自分の希望を言わないと、私が結婚式に『関心がない』って、修一さんに思われちゃう」
じわり、眸が潤んでくるのがわかる。
杏花さんは、慌てて口を開いた。
「わわっ、お義姉さん、泣かないで!」
「泣いてない!まだ!!」
「『まだ』って、泣きそうなんじゃない!!」
オロオロと、バッグからハンカチを取り出す杏花さん。
そのまま立ち上がり、テーブルを回って向かいの私の席の隣に座る。
ハンカチを私に差し出して、背中を優しく擦ってくれた。
「───大丈夫よ、修兄が急いだせいもあるんだから、お義姉さんがいけないんじゃないよ。
ホント余裕無いんだから。修兄ってば」
ちょっと怒ったように言ってから、杏花さんは何か考える風に小首を傾げた。
暫く考えていて、ふと何か思い付いたように口を開く。
「……んと、だから、お義姉さんは『自分の花嫁姿が想像できない』ってことでいい?」
「そう!そうなの!!
全くイメージわかないの!!
ていうか、なに着ても仮装に見えそう」
私は、机を叩いて力説した。
「修一さんは、何着でも素敵だと思うの。
でも私は、どうやっても『○ーさん(某くまさん)が花嫁衣装着てる』ようにしか見えないと思うの。
はっ、いっそ、○ーさんの着ぐるみを……」
「ちょ、ストップ、ストーップ!!
お義姉さん、物凄い迷走の仕方するね!
結婚式にコスプレは、ハードル高いよ!!」
はあはあと息をあげつつ、杏花さんが妄想を止める。
はっ、私ったら……
私が赤くなったり青くなったりしていると、杏花さんが吹き出した。