彰汰side

 まだ戸惑っている七海の手を繋いだまま、電車に乗る。手を振り払われるか自信がなかったが、振り払われない事に嬉しく思う。七海の手は小さくて冷たくて、そんなことも知らなかったのだと痛感した。オレの手で暖めたいと思い、ギュッと握りしめた。(うつむ)いたままの七海とは目を合わす事は出来ないが、握りしめた瞬間七海の身体がビクッとした。
 
 オレの最寄り駅で降りる。七海は自分の部屋に帰るつもりだったようだが、今日はオレの部屋に連れて帰りたい。手を引き降りるように促した。

「 オレのマンション こっちだから 覚えて 」

 9月に少しだけ一緒に歩いたが、家まで行くのは初めてだ。

「 スーパーはここが近くて、コンビニはそこが一番近いよ」これからは利用することになるよう願望を込めて案内する。

「 手を離しても逃げませんよ 」

 とうとう言われてしまったが、自分の気持ちを率直に言う。

「 オレが繋いでいたいから 離さない」
余計に離したくなくて恋人繋ぎにする。


 しばらく歩いてマンションに着いた。
「 このマンションの3階 305号室だよ」
エレベーターで3階へ上がり案内する。

 鍵を開け照明を付けて七海を中へ通す。鍵を閉め、洗面所はこっちと促がし、一緒に手を洗いうがいもする。 トイレとお風呂の場所も示しながらリビングに入った。

 部屋は冷えていて急いで暖房をつけた。

「 何か飲む?お茶?コーヒー ?」

「 コーヒーを下さい 。おトイレも借りていいですか?」

 トイレなんて断らなくていいんだぞ、敬語だって要らないのに、七海が2人の関係を恋人と認識していない可能性が高いことに動揺する。

「 いいよ、コーヒーいれておくよ 」

 どう七海に話そうかと気持ちを落ち着かせながらコーヒーをいれた。

 七海が戻りソファーに座るよう勧めた。七海はトイレへ行く前とは表情が違って強張っている、緊張しているのか?


「 七海、今まで ごめん」頭を下げた。

「 何に対してですか?」

「 オレ 七海が好きだ。七海を抱いた時から好きだった。初めて会った時から惹かれてたのかも知れない。
七海のくるくる変わる表情が忘れられなかった 。
好きなのに 好きと伝えていなかった。
不安にさせてごめん 」

「 他に好きな人いるんですよね ………神崎さんの好きって ……好きになってくれてありがとうございました。私 帰ります 」

 えっ!好きな人なんて七海だけだぞ!七海からの言葉に驚いた。

「 待って!まだ話しは終わってないし、他になんていない!どうして他の人が出て来るんだ?」

「 私はもういいです!
何故こんな仕打ちを受けないといけないんですか?わざわざ自分の部屋に連れてきて、『 彼女がいるから別れてくれ 』
ってハッキリ言ったらいいじゃない !
『別れる 』じゃ無くて『 連絡しないで
くれ』でしたね、 さようなら」


 逃がしたくなくて、後ろから抱き付いた。

ガッシャーン
 コーヒーが七海の足に掛かり、カップが床に転がっている!火傷しなかったか?!

「 神崎さん 布巾とタオルはどこですか?早く貸して下さい !」

「床なんていい!七海は火傷してないか?」

 早く冷やさなければいけない。七海を抱き上げお風呂場まで運ぶ。スーツを着たままシャワーの水を足元に掛ける。湯船にもお湯を溜める。

「火傷するほどでは無いよ、 大丈夫だから」と七海に浴室から追い出された。

 コーヒーが溢れた場所を掃除して急いで浴室へ向かう。オレ自身もコーヒーがかかって洗いたいし、入れ違いで風呂に入っている間に帰られるリスクは無くしたい。

 裸になり黙って浴室を開けて中へ入る。

「 火傷にならなかったか?」七海の足を確認したが赤くなっていないので安心した。

「 大丈夫そうだな 」
七海が持っていたボディタオルを奪い 七海の身体を洗う。七海に触れて良いのはオレだけだ!

 逃げられないうちに誤解を解くことにする。

「 オレの彼女は七海だよ。なんで『 他に好きな人がいる 』なんて思ったんだ?」

「 あのカップ 、 ペアだったから 」

 なんだよ、ホッとして気が抜けそうになる。

「 あれは七海の為に 用意したんだ 」

「 私の為?」

 洗い終わり、七海の身体にシャワーをかけた。七海を湯船に入らせ、自分は急いで髪と身体を洗い、七海を後ろから抱くように湯船に入る。七海からオレのシャンプーの匂いがする。これも誤解してる?

「 七海とこの部屋で過ごしたくて、一緒に使いたくてオレがあのペアカップを選んだ。
 まさか誤解されるとは思わなかった。
そのシャンプーもボディソープも七海のだよ、あとはタオルと部屋着 歯ブラシも用意したし。シャンプーもボディソープも七海のを使わなかったのか?匂いが違う」

「だって私のだって知らなかったから使えなかった」
 
 正直に話すと 七海は泣いていた。わかってくれただろうか?愛しくなり頭を撫でた。オレの分身も元気になり気付かれないようにする。

「 そろそろ温まったか?出よう」

 七海用のピンクのタオルで七海の身体を包んだ。

「 この部屋着使って、でも下着はないんだ ごめん」

「 仕方ないよ、部屋着ありがとう。あと洗濯機借りていい? 」まだ切ない顔のままで聞く。

「 オレの部屋にあるもの 一々断らなくてもいいよ、勝手に使っていいからな 」

「 わかった、ありがとう」少しだけ微笑みを浮かべて照れたように続けて言う。

「 神崎さんのも洗うね 」

「 悪いな…ありがとう」七海の笑みがオレの心に沁み入った。

 寝室へ行き部屋着に着替える。
ベッドを整えリビングへ向かうと台所から七海が抱き付いて来た。

 七海の想いが伝わってくる。オレも抱き締めた。キスしたがキスだけでは止まらなくなる。

 七海の全部をオレのものにしたくなり、抱き上げベットへ運んだ。全身にキスを落としながら「 七海 好きだよ」と囁く。柔らかい胸をやさしく堪能した手はお腹を通り過ぎその先にたどり着く。
胸の丸い膨らみを口に含み味わうと、七海は敏感に反応する。

「 神崎さん 好きです」

「 神崎じゃなく 名前で呼んでくれ 」

「彰…くん?……」

「ん、何?」

「 彰くん 好きです 」

 名前で呼ばれ、気持ちは高揚する。指だけでは我慢出来ずに口づけて七海を味わうと、甘い蜜が溢れたでた。

「 彰くん 早く 欲しい」

 七海の言葉に挑発され、ゆっくり味わう様に中へ入いる。

 激しすぎたか、七海を抱き潰してしまった。七海に布団を掛け、オレはのどが乾き、冷蔵庫にドリンクを取りに行く。お茶ではなくスポーツドリンクを選んだ。ちょうど洗濯機の終了音が聞こえたので、脱衣所に洗濯物を干しておく。

 寝室へ戻ると七海と目が合った。のどが渇いていると思いペットボトルのスポーツドリンクを渡し、ベッドに入った。

 腕枕をして七海を抱き寄せて、今日伝えたかった事を話す。

「 今週の水曜日にさ、同期の坂口 瑛 と帰り時間が一緒になって食事することになったんだ。

  瑛もさ俺たちが出会った頃に社内に彼女が出来て、デートの話しになった。

『最近どこに行った?』と聞かれて『箱根しか行ってない』って話したらいろいろ追求された。答えているうちにオレ自身不安になった。

 最近メッセージ届かなくて気になっていたんだ、それで瑛と話していて七海が電話くれた後からないことに気付いた。

 瑛たちはお互い下の名前で呼び合っていて 七海は『 神崎さん 』だろ。会うのは平日の夜だけでこの部屋にも連れて来てなかったし、好きも伝えてなくて『付き合おう』って七海に言ってもいないのに 彼氏になった気で浮かれてた。酷い男だよな… 瑛にも怒られた。

 オレと七海の事… …いろいろ考えたんだ。 手遅れになるのが怖かった。 七海をこの部屋に連れて来たくて七海に必要なもの考えた。

 今日も七海の買い物していたんだ。
終わったときに隼から連絡が来て『今 駅前の居酒屋で隣の部屋にやまうち ななみがいて 狙われている』って言うから急いで行ったんだ。

七海 『 みんなとイルミネーション見に行く 』って言っただろ? 行かせたくなかった 一緒に見るのはオレで無いと許せなかった オレって独占欲強かったんだな

七海が誘ってくれたの 5日だよな? 」

「 5日だよ でもいいの 」七海の顔が一瞬歪んだ。

「 なんでいいんだ?」誰が(男)と約束したのか?

「 綾乃が空けておくからって言ってくれたの 」

「 オレが一緒に居たい!駄目か?」想いが伝わるよう七海の手を取った。

「でも 同期で集まるんでしょう?」

「 朝に断るよ 」

「 ダメだよ、幹事さんに悪いよ。行って来て?私は大丈夫だから」

「 七海?今はもう5日だ。今日は何がある?何で今日なの?」

「 ………えへ 」

「 苦笑いで誤魔化すなよ、もしかして七海の誕生日なのか?」

「 うん ……… 」

やっぱりな

「 七海、お誕生日おめでとう 」

「 ありがとう。誕生日の始まりに神崎さんと一緒に過ごせて、凄く幸せだよ 」

「 神崎さん じゃないだろ?ちゃんと下の名前で呼べよ 」

「 彰くん…」

「 22歳か?」

「 そうだよ、 彰くんの誕生日はいつ?」

「 オレは 4月21日 だよ 」

「 まだ 先だね 」

「 七海 、オレも七海と一緒にいられて幸せだよ 」

 七海の誕生日を祝えなかったかもしれない。オレのタイムリミットはギリギリだったんだ。

 七海を確かめるように抱きしめキスをする。
今日はもう離してやれないかも…自分を止められそうにない。