七海side

 手を繋がれたまま電車に乗り、
神崎さんの最寄り駅で降りた。普段とは違う神崎さんに戸惑ってしまう。

「 オレのマンションはこっちだから、覚えて 」と案内される。

「 スーパーはここが近くて、コンビニはそこが一番近いよ」と説明までしてくれる。どうしたの?手も繋いだままだよ。

「 手を離しても逃げませんよ 」

「 オレが繋いでいたいから 離さない」と逆に恋人繋ぎにされる。その言葉と行動にドキドキするが、期待して良いのかわからない。


 しばらく歩くと見えてきたマンション
「 このマンションの3階 305号室だよ」
エレベーターで3階へ上がり案内された。

 鍵を開け中へ通された。鍵を閉め、洗面所はこっちと促され手を洗い、うがいもする。 トイレとお風呂の場所も示しながら奥に進むと1LDKになっていた。

 部屋は冷えていて神崎さんが暖房をつける。
「 何か飲む?お茶?コーヒー ?」抑揚の無い口調で、歓迎されている感は皆無だった。何故連れてこられたのか益々わからない。

「 コーヒーを下さい。おトイレも借りていいですか?」

「 いいよ、コーヒーいれておくよ 」

 部屋へ戻るとコーヒーが2つ置かれてた。まるで恋人同士が使うペアになっている。私が彼女ではなかったと確信する。元カノ?それとも今カノのものだろうか?あまりの無神経さに哀しくなる。

 ソファーに2人で座る。

 手持ち無沙汰なので、コーヒーを飲もうと思ったが、カップを見ると気が引けた。

「 七海、今までごめん」と神崎さんが頭を下げる。

「 何に対してですか?」何故謝っているのかわからない。利用してたこと?もう会わないってこと?

「 オレ 七海が好きだ!七海を抱いた時から好きだった。初めて会った時から惹かれてたのかも知れない。

 七海のくるくる変わる表情が忘れられなかった。

 好きなのに 好きと伝えていなかった。
不安にさせてごめん 」

 神崎さんの『好き』と私の『好き』は差があるんだよ。きっと…

「 他に好きな人いるんですよね ………神崎さんの好きって ……好きになってくれてありがとうございました。私、帰りますね 」

「 待って!まだ話しは終わってないし、他になんていない!どうして他の人が出て来るんだ?」

「 私はもういいです!
何故こんな仕打ちを受けないといけないんですか?わざわざ自分の部屋に連れてきて、『 彼女がいるから別れてくれ 』
ってハッキリ言ったらいいじゃない !
『別れる 』じゃ無くて『 連絡しないで
くれ』でしたね、 さようなら」

 立ち上がると直ぐに抱き締められた。

ガッシャーン
 私のコーヒーが倒れスカートに掛かり、カップが床に転がっている。割れて欲しかったのか ?割れなくて良かったのか?最悪だな、 私。
 少しだけ熱かったが我慢出来ない程ではなかった、急いで拭くものを探す。

「 神崎さん 布巾とタオルはどこですか?早く貸して下さい !」

 私が台所へ取りに行きたいが、足の裏までびっしょりだった。

「床なんていい!七海は火傷してないか?」

 お姫様抱っこされ 浴室まで運ばれた。シャワーで足元に水を掛けながら、湯船にお湯を溜めてくれる。

「火傷するほどでは無いよ 大丈夫だから」と神崎さんには浴室から出て行ってもらう。

 スーツを脱ぎ汚れた部分はシャワーで
すすぐ。紺色だったので大丈夫そうだ。ストッキングもお湯ですすぎ、洗面器に脱いだものをまとめていれる。

 さっきまで高ぶっていた私の感情は、コーヒーのハプニングのお陰か落ち着いていた。

 髪を洗おうとシャンプーを見ると 2種類ある。一つは使いかけで、もう一つは私が愛用しているシャンプーで新しい。 ボディソープも2つあり、使いかけと私愛用の新しいもの。

これってどういうこと?
取りあえず、私愛用のシャンプーを使うか悩んだが、彼女のものかも…と考えれば使う気にならなかった。きっと神崎さん愛用だろうシャンプーで髪を洗う。身体を洗おうとボディタオルを掴むと神崎さんが裸で入ってきた。

「 火傷にならなかったか?」屈んで足を確認し始める。

「 大丈夫そうだな 」
持っていたボディタオルを奪い、私の身体を洗い出す。

「 オレの彼女は七海だよ なんで『 他に好きな人がいる 』なんて思ったんだ?」

「 あのカップ ペアだったから …」

「 あれは七海の為に 用意したんだ 」

「 私の為?」

 身体を洗い終わりシャワーで泡を流してくれる。

 私は湯船につかる。
神崎さんは早いスピードで髪と身体を洗い終え、私を後ろから抱くように湯船に入ってくる。

「 七海とこの部屋で過ごしたくて、一緒に使いたくてオレがあのペアカップを選んだ。
 まさか誤解されるとは思わなかった。
そのシャンプーもボディソープも七海のだよ、あとはタオルと部屋着 歯ブラシも用意したし。シャンプーもボディソープも…七海のを使わなかったのか?匂いが違う」

「だって私のだって知らなかったから使えなかった」
 そんな事知らないよ、神崎さんが私の事を思ってくれていたんだと分かって涙が溢れた。

 後ろから抱き寄せられるともう駄目だ、離れたくない。

 お風呂からあがるとタオルで身体を拭いてくれる。ピンクの可愛いタオルで、これも私のために用意したの?

「 この部屋着を使って、でも下着はないんだ ごめん」

「 仕方ないよ 部屋着ありがとう 。あと洗濯機借りていい? 」

「 この部屋にあるもの 一々断らなくてもいいよ 勝手に使っていいからな 」

困ったように優しく微笑む神崎さんに微笑み返した。

「 わかった ありがとう」

「 神崎さんのも洗うね 」

「 悪いな…ありがとう」

 神崎さんが寝室へ行ったので、 部屋着を着て洗濯機をかける。さすがに下着がないとスースーして落ち着かない。

 リビングへ行くと コーヒーが溢れたところはキレイなっていた。時計は23時だ。

 台所に行くと 流しに カップがあった。
2つのカップを洗う。割れなくて良かった。私のだと思うと愛着が湧いてくる。

 神崎さんが 寝室から出てきた、神崎
さんの優しさが嬉しくて飛びついて抱きしめてしまった。
 お互いに抱き合いお互いを感じた。久々の抱き心地に想いが溢れる。
 キスをして、顔や首もとにもキスされる。何度もキスされ離れられなくなる。
 今は神崎さんを感じたい。

 抱き上げられベッドへ運ばれ、身体中にキスされる。
「 七海 好きだよ 」と何度も囁いてくれる。神崎さんに『 七海』と名前を呼ばれるだけでも嬉しい。

 神崎さんの手によって、どんどん身体が蕩けていく。「 神崎さん 好きです」

「 神崎じゃなく 名前で呼んでくれ 」

「 彰…くん?……」

「ん、何?」

「彰くん 好きです 」名前で呼べば、
余計に手と口で攻められもう待てなくなる。

「 彰くん 早く 欲しい」囁やけば答えるように優しく突かれた。

 だんだんと激しく抱かれ、意識が飛ぶ。

 気が付くと、彰くんが立っていてペットボトルのスポーツドリンクを渡された。彰くんもベッドに入り腕枕をされ2人寄り添う。

 彰くんが真剣な声で話し出した。

「 今週の水曜日にさ、同期の坂口 瑛 と帰り時間が一緒になって食事することになったんだ。

  瑛もさ俺たちが出会った頃に社内で
彼女が出来て、デートの話しになった。

『最近どこに行った?』と聞かれて、
『箱根しか行ってない』って話したらいろいろ追求された。答えているうちに
オレ自身不安になった。

 最近メッセージ届かなくて気になっていたんだ、それで瑛と話していて七海が電話くれた後からないことに気付いた。

 瑛たちはお互い下の名前で呼び合っていて 七海は『 神崎さん 』だろ。会うのは平日の夜だけでこの部屋にも連れて来てなかったし、好きも伝えてなくて『付き合おう』って七海に言ってもいないのに 彼氏になった気で浮かれてた。酷い男だよな… 瑛にも怒られた。

 オレと七海の事… …いろいろ考えたんだ。 失いたくなくて、 手遅れになるのが怖かった。 七海をこの部屋に連れて来たくて七海に必要なもの考えた。

 今日も七海の買い物していたんだ。
終わったときに隼から連絡が来て『今 駅前の居酒屋で隣の部屋にやまうち ななみがいて 狙われている』って言うから急いで行ったんだ。

七海 『 みんなとイルミネーション見に行く 』って言っただろ? 行かせたくなかった 一緒に見るのはオレで無いと許せなかった。オレって独占欲強かったんだな

七海が誘ってくれたの 5日だよな? 」

「 5日だよ、でもいいの 」

‘’いいんだよ、諦めてたから‘’心の中で呟いた。

「 なんでいいんだ?」慌てたように言う

「 綾乃が空けておくからって言ってくれたの 」

「 オレが一緒に居たい、駄目か? 」私の手を取り、不安気な眼差しで私を見て言う。

 そんな神崎さんにドキドキした。

「でも 同期で集まるんでしょう?」

「 朝に断るよ 」

「 ダメだよ 幹事さんに悪いよ。行って来て?私は大丈夫だから」

「 七海?今はもう5日だ。今日は何がある?何で今日なの?」

「………えへ」

「 苦笑いで誤魔化すなよ もしかして
七海の誕生日なのか?」

「 うん ……… 」
バレちゃったな

「 七海 お誕生日おめでとう 」

「 ありがとう 誕生日の始まりに神崎さんと一緒に過ごせて 凄く幸せだよ 」

「 神崎さん じゃないだろ?ちゃんと下の名前で呼べよ 」

「 彰くん…」ちょっと恥ずかしいかも。

「 22歳か?」

「 そうだよ 彰くんの誕生日はいつ?」

「 オレは 4月21日 だよ 」

「 まだ 先だね 」

「 七海 、オレも七海と一緒にいられて幸せだよ 」

 抱き寄せられ、めくるめく甘い時間がが過ぎる。
 今年の誕生日は幸せな時間から始まった。