秋になり、夜も冷えてきた。
自宅の最寄り駅で降りると今朝見かける事が出来なかった彼女が目の前を歩いてくる。思わず声を掛けた。

「 こんばんは、この駅で、それも夜に偶然だね 」

「 こんばんは 」帰ってきた声は枯れていて、良く見ると体調が悪く辛そうだ。

「 あれ?風邪か? 」

「 今、そこの病院の帰りで 扁桃腺炎でした 」

「 一人で帰るのはムリだろ、送るよ 」

「 いえ、大丈夫です。点滴もしましたから直ぐに良くなります 」

良くなるって今は良くないってことだろ。

「 点滴が必要なくらいなら、送るの決定だな? さ、行くぞ 」

「 あの、駅はこっちでは?」

「 ああ、家こっちだから…車で送るよ。 でも歩くの辛いよな、そこのコンビニで待っていてくれないか?15分くらいで戻って来るからイートインスペースで座ってまってて 」

 コンビニの前まで送り、急いで自宅へ車を取りに帰った。素直にコンビニで待っているだろうか?
”先ずはケータイで連絡先交換すれば良かったか ”と後悔した。

 コンビニの駐車場へ着くと彼女は買い物をしていたようだ。店内に入り「 待たせたな 」と荷物を受け取り、車へ案内した。

 助手席を開けて乗るよう促す。荷物は後ろへ載せた。

「 お願いします 」
身体が辛そうなので、シートベルトを着けるのを手伝う。

「 ナビ設定するから住所教えて 」

 
 住所を入力すると案外近かった。目的地のアパートを設定し、彼女に確認する。

「 ここで合ってる? 出発するよ、20分くらいでつくな、 身体辛かったら 目を閉じていていいから …」

「 はい 、ありがとうございます。
あの遅くなりましたが、 私は竹内 七海です。名前教えて貰ってもいいですか? 」

「 そうだ、知り合いのつもりだったけど名前も知らなかったな。オレは 神崎 彰汰 よろしくな 」

「 よろしくお願いします。早速ご迷惑お掛けしてすみません 」

「 こんなの迷惑でもないよ。食欲はあるのか?」

「 食欲はありませんが さっきプリンを買いました。それに冷凍庫にアイスのバニラがあるので大丈夫です 」

「 そうかー 喉が痛い時は冷たいものも良いね。 一人暮らしなんだろ?誰か頼れる人はいるのか?」

「 はい、会社の同期で頼れる友達がいます。今日の病院も調べて薦めてくれました」

 会話が途切れ、赤信号でふと見ると目を閉じていた。

 「 竹内さん…竹内さん…着いたよ」

 抱えて部屋へ運ぼうと思ったが、部屋はわからず鍵も探さないといけないので起こした。またリスのように驚かれてもいけないしな。

「 車はどこへ置けば良い? 」

「 そこの5番へ入れて下さい」駐車場付きか良かった。

「 部屋まで送るから 」と車から降りる。

「 2階の奧の203号室です 」と歩き出すが、ふらつくようで見ていて危なっかしいので支えるように横を歩く。

 部屋に着くと警戒心なしに鍵を開け ドアも開けている。

「 連絡先登録しておくからケータイのロックを外して貸して 」

 またしても疑いもせずにオレにケータイを渡す。少し呆れながらケータイを預かり自分の連絡先を登録し、念のため自分のケータイへ電話し、着信を確認してからケータイを返した。

「 何か欲しいものがあったり、体調悪くなったら連絡して。何時でもかまわないから… あとさオレが言う事ではないかも知れないけど、 知らない人の前で部屋を開けない方がいいよ 」と注意をして荷物を玄関に入れた。

「 一人で大丈夫?」

「 はい 、大丈夫です。いろいろとありがとうございました 」

「 水分とって 休めよ お大事にな 」

 あれで良く一人暮らしが出来ているな。 今まで本当に大丈夫だったのか心配になる。

 今日だって一人で大丈夫なのか?

 翌日、連絡はないが心配なので アイスを買って届けることにした。

" ピンポーン "

「 どなたですか?」元気なハキハキとした声がする。

「 神崎です 」

「 はい!」とドアが開く。

「 神崎ですが、七海さんの具合はいかがですか?」彼女の友達か?

「 どうぞお入り下さい。昨日は七海がお世話になったそうでありがとうございました」

「いえ、お邪魔します」昨日は夜で玄関だけだったから中はわからなかったが、彼女らしい 色使いの部屋だった。

「 昨日は…送ってくれて…ありがとうございました 」昨日よりは顔色は良さそうだ。だか、声を出しにくいようだ。

「 熱は下がったか? これアイス 」と差し出すと、突然の笑顔にドキッとした。

「 熱は…大分…下がりました アイスをありがとう…ございます 」とニコニコしてる。ほんと単純で面白い。

「 綾乃 冷凍庫に入れてくれる?」

「あっ昨日話した、頼れる友達の 進藤 綾乃さん です」

「 オレ神崎 彰汰です 」彼女とは性格が反対らしく頼れるのは本当のようだ。友達が付いていれば安心なので早々に帰ることにする。

「 アイス渡しに来ただけだから、もう帰るから 大人しく寝てろよ 」と頭を撫でた。また花が咲くような笑みだった。


「 では、お邪魔しました 」と部屋を出た。