「四宮さんを貶めるような嘘をついておきながらそういう態度をとるのは、よくないと思います。氷室さんは、生活態度も女性関係もだらしないけど、誰かを傷つけるような嘘はつかない人です。なにか理由があったなら教えてください」

二十一時過ぎの寝室。照明がついているのはリビングダイニングだけなので、開いたままのドアから光が入り込んでいるだけで薄暗い。

強い口調で言った私に、氷室さんは困ったような、呆れたような笑みをこぼした。

「どこまでお人よしなんだよ。騙されて傷ついたくせに、理由があったはずだとか」

目を伏せそう笑った氷室さんが、ゆっくりと視線をあげて私を見る。
その瞳に……なんでだか心臓がドキッとした。

「鈴はさ、色々と幻想を持ちすぎなんだよ。男なんかその場さえよければいいって考えてるヤツばっかりだし。俺がついた嘘だって、どこまで嘘かわからないだろ。あんな真面目なふりした四宮だってどうせ平気な顔して鈴に嘘つく……」

「やめてください」

まるで子供が言い訳するみたいにペラペラ話す氷室さんの口を、手のひらを押し付けて塞ぐ。

四宮さんをひどく言ってほしくないという思いもあったけれど、これ以上氷室さんに嘘をついてほしくないという思いが一番だった。

口を塞いだままじっと見つめていると、不意にその手を掴まれベッドに引き込まれる。

「……っ」

ボスンという衝撃とスプリングの軋む音。掴まれたままの手。
咄嗟の出来事に思わず目を閉じていた私の視界に映ったのは、上から私を見下ろす氷室さんの姿だった。

自分の置かれている状況をやっと把握したと同時に手を振りほどこうとしたけれど、氷室さんの手はびくともしなかった。