ふたりきりの部屋。

「好きだ」

すぐ傍からハッキリと聞こえた声に、胸が嬉しさで溢れる。

言葉で、態度で、眼差しで、もう何度も四宮さんは想いを伝えてきてくれていた。
その気持ちに応えられたことがとても幸せに感じ、一気にこみ上げた涙が頬を伝っていた。

しがみつくように抱き締め返した私に、四宮さんが笑ったのが振動でわかる。
どんな顔で笑ったのかを想像しただけで胸が締め付けられ、また目の奥が熱を持った。



「それで、どうして嘘ついたんですか?」

二十一時。帰宅し、コートをしまうために寝室に向かう氷室さんのあとを追いかけながら聞く。

四宮さんと私の仲をこじらせようとしたとしか思えない嘘をつくのは氷室さんらしくない。きっと事情があるのだろうと思った。

ゆっくりとした動作でコートを脱いだ氷室さんは、開けっ放しにしているクローゼットから適当なハンガーを取り出しかける。

そうしながら、私に視線だけよこした。

「別にいいじゃん。なんか結果的にうまくいったみたいだし。さっきだって通路でいちゃついてたもんな」

笑みを浮かべた氷室さんに、言葉に詰まり眉を寄せた。

氷室さんが言ったのは、嘘ではない。
『さっき』というのは、今から五分ほど前。四宮さんが「あまり遅くまでいても迷惑だろうから今日は帰る」と言い、玄関先まで送った時のことだ。