「……嘘……なの……」


 え……。


 よく聞こえなかった。
 黒川さんの声が小さくて。

 けれど。
 確かに黒川さんはこう言った。

『嘘』って……。


「本当は……
 麻倉さんの過去のこと……
 ……何も……知らないの……」


 え……⁉


「試しに麻倉さんにそう言ってみたら、
 麻倉さんに反応があったから……
 それで、私……」


 そ……そんな……。


 それじゃあ、私……。
 黒川さんの嘘にまんまと……。


「……そう……」


 呟くように。
 そう言った真宙くんの一言。

 その中には。
 何かが込められているよう。


「行こう、希空ちゃん」


 真宙くんはそう言って、その場から離れかけた。


「青野くん……‼」


 そんな真宙くんを見て、黒川さんは慌てて真宙くんの方へ駆け寄った。


「青野くん、ごめんなさい‼
 私、麻倉さんにそんなことをするつもりはなかったの‼」


 必死に言う、黒川さん。


 そんな黒川さんのことを冷めた様子で見ている真宙くん。


「じゃあ、俺たち行くから」


 真宙くんはそう言って、黒川さんから目を逸らし。
 私の手首を掴んで、そのまま歩き出した。