「なんで約束破るんだよ‼」


 そう感じていたとき。


 恐怖というよりは。
 わけがわからないことを言ってきた。


 どういうこと⁉

 約束を破るって……⁉


「見ちゃったんだよ‼ 昨日‼」


 見ちゃったって?

 何を?


「青野くんと下校するところを‼」


 ……‼


 見られてた……⁉
 黒川さんに……⁉


 もう真宙くんとは関わらない。
 そう黒川さんと約束したのに。
 真宙くんと一緒に下校した。

 それは後ろめたい気持ちだった。


 だけど……‼

 真宙くんから話しかけられる。
 その場合は、どうにも……。


「ごめんなさい。そんなつもりじゃ……。
 で……でも、やむを得ない場合も……」


「口答えするな‼」


 言い終わる前に。
 黒川さんに遮られてしまった。


「お前が青野くんのことを誘い出したんだろ‼」


 ……⁉


 言ってきた。
 とんでもないことを。
 黒川さんが。


「おとなしそうに見えて、裏では青野くんのことを誘惑してたんだな‼」


 誘惑って……⁉

 私が真宙くんのことを……⁉

 黒川さん、なんということを……‼


「なんてキタナイ女‼」


 キタナイって……⁉

 なんで……‼
 なんでそこまで言われなくてはいけないの……⁉


 って。
 今、叫んでいるのは全て心の中。

 それらの言葉は。
 黒川さんには全く聞こえていない。


 本当なら。
 伝えなくてはいけない。
 声を出して。
 黒川さんに。

 でも。
 極度の緊張と恐怖のせいか。
 声が全く出ない。



「お前、あのこと言っていいのかよ‼」


 ……‼


 ちょ……ちょっと待って‼ 黒川さん‼

 そのことは絶対に言われたくない‼
 誰にも……真宙くんに知られたくない……‼


 ダメだ……‼
 声が……。
 声が出ない……‼


 もう……ダメ……。



「そこまでだよ」


 ……⁉