「……お前さぁ」


 そのとき。

 黒川さんは私のことを『お前』と言った。

 声のトーンは『ねぇ』と言ったときと変わらないまま。


「どういうつもりだよ」


「…………」


 できない。
 出すことが。
 声を。
 驚き過ぎて。

 違い過ぎる。
 この間の黒川さんと。


 それにしても。

 どういうつもりって……?


 そんなこと。
 私の方が訊きたいくらい。


 なにがなんだかわからない。

 心の中は混乱しそうになっていた。


 それでも。
 なんとか冷静になろうとした。

 けれど。
 そう思えば思うほど。
 混乱は増していく。



「ふざけんなよ‼」


 容赦ない。

 黒川さんは。
 そんな私のことを。
 待ってはくれない。


 比例している。
 心の中の混乱が増すと。
 黒川さんの口調の荒さも増す。


 一体どうしたらいいのか。
 どう対応すればいいのか。


 このままでは。
 黒川さんに何をされるかわからない。


 黒川さんが恐ろしい。
 恐ろしくて恐ろしくてたまらない。

 あまりの恐怖で全身が震えてしまいそう。


 逸らしたい。
 目を。
 黒川さんから。

 けれど。
 逸らすことができない。
 恐怖のあまり。


 黒川さんという恐怖。
 それに怯えている中。

 全く容赦する気配がない、黒川さん。


 絶対。
 まだ何かを言ってくる。
 黒川さんは。

 そんな雰囲気が。
 はっきりと見えていた。


 黒川さん。
 次は何を言ってくるつもりなのだろう。

 私は恐怖でいっぱいだった。