窓が開けられた1年A組の教室には心地よい風が入ってきていた。
そんな教室の中央に、あたし、飯田ミキコ(イイダ ミキコ)はいた。
「あなたの後ろに幽霊がいるよ」
1人のクラスメートを指さして言うと、さされた女子生徒は真っ青になって「キャア!」と叫んだ。
あたしを取り囲んでいた他の子たちも一斉に青ざめ「本当に!?」と、興味津々で聞いてくる。
あたしは胸を反り「本当だよ!」と、答えた。
「あたしには霊感があるって言ったじゃん」
自身満々にそう言うと、一番近くにいた神吉ノドカ(カミヨシ ノドカ)が目を輝かせてあたしを見つめた。
「すごいね! あたし、怖いものとか大好き!」
ノドカはそう言うと、あたしにもっともっとと催促してくる。
そんなノドカに反応してあたしはジックリと教室の中を見回した。
そこはごく普通の教室で、前方には黒板。
後方にはごみ箱とロッカーが設置されている。
特にかわったところはなかった。
そんな教室をじっくり、じっくりと見回す。
そして窓辺へ視線を移した瞬間、あたしは「あ!!」と、大きな声を張り上げた。
クラスメートたちがビクリと体を震わせてあたしの視線を追いかける。
「なになに!? なにかいたの!?」
ノドカは身を乗り出して聞いてくる。
あたしは深刻な表情を作り、うなづく。
「な、なにがいたの?」
ノドカが緊張して、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「窓の向こうに血まみれの女の子が見える」
あたしの答えにクラスメートたちが悲鳴をあげて窓から遠ざかった。
「たぶん、あたしたちと同じ中学1年生の子だよ。入学してすぐイジメられるようになって、飛び降り自殺した子みたい」
滔々と語るあたしに「やめてよこわいから!」と、あちこちから声が上がる。
あたしはジッと窓辺を見つめた。
そこにはなにもない。
実はあたしの目にも何も映っていなかった。
本当は霊感なんてないし、自殺した女の子がいるなんてでたらめだ。
だけどこうして話をしているとクラスメートたちは喜ぶし、なによりあたしは注目の的だ。
「ミキコちゃんって本当にすごいよね」
興奮気味にそう言われることが快感だった。
中学に入学して新しい友達が増えると、絶対に有名になってやろうと思っていたんだ。
あたしの思惑は成功し、見事クラスの中心になれているというワケだ。
でも……。
そんなあたしを見て快く思わない子たちも、当然いる。
「幽霊なんているわけないじゃん」
そう言ってきたのはクラスメートの松崎マナミ(マツザキ マナミ)だった。
マナミの後ろにはいつでも荒木リサ(アラキ リサ)がいる。
マナミはこの中学校1位2位を争うほどの美少女で、あたしみたいに苦労しなくても有名になれる子だった。
あたしはムッとしてマナミを睨みつける。
マナミも負けじとあたしを睨んでくる。
大きな目に睨まれても、全然怖くない。
「ミキコの能力は本物だよ!」
途端に、ノドカがあたしとマナミの間に割って入って言った。
「なによあんた。そんなウソつきの肩を持つの?」
「ミキコは嘘なんてついてない」
そう言い切るノドカは完全にあたしのことを信じ切っている。
「中学にもなって幽霊なんて信じてるの? バッカじゃないの!?」
マナミは腕を組み、仁王立ちして言う。
きっと、自分よりあたしの方が有名になってきているから、不満なのだ。
「そんなこと言っちゃダメだよ」
あたしは立ちあがって言った。
するとリサがマナミを庇うように一歩前へ出る。
「幽霊を侮辱したら、とりつかれるよ?」
あたしの言葉に数人のクラスメートたちがまた悲鳴をあげた。
「取りつかれるわけないじゃん! 幽霊なんていないんだから!」
リサが強気で言い返してくる。
「本当にそう思う?」
あたしは窓辺へ視線を向け、ため息を吐いて見せた。
もちろんそこにはなにもない。
しかしマナミの表情が少しだけ変わったことを見逃さなかった。
眉を寄せて窓辺を気にしている。
学校に幽霊がいると言われて怖くない子なんて、きっといない。
マナミやリサみたいに信じていなくても、『幽霊はいる』と繰り返して言っていればどうしても気になってくる。
「呪われても知らないよ?」
ノドカが追い打ちをかけるように言うと、マナミは「チッ」と小さく舌打ちをした。
そしてあたしを睨みつけてくる。
「放課後話があるから、校舎裏に来て」
マナミはあたしの耳元でそう言うと、自分の席へと戻っていったのだった。