海についてもこれといって何かするわけではない。

海に入って2人だけで遊んでいたのはいつのことだったか。

もう小さい頃のことは随分と忘れてしまって思い出せない。

でも。

青がどこまでも広がる海と、シュンの眩しすぎる笑顔だけは忘れたことはなかった。

「俺、彼女できた」

シュンが砂浜を歩きながらいった。

私はなにも言わなかった。

言えなかった。

「だから海は終わりにしよう」

シュンが続けて言葉を紡いだ。







ー分かってたんだ。

こうなるってこと。

私たちは隣にいるのが当たり前で、お互いが一番だったけど。

だけどきっと今はそうじゃない。

シュンの心には私じゃない誰かがいて。

でも私の心にシュンがいて。

分かってたの。

私が一番近くで見ていたから。

その笑顔も、切ない顔も。






こういう日がいつか来る、って分かってた。

だから私がシュンをとめることなんかできない。

シュンが裸足になって海に足を浸す。

私も海の青に浸かりたかった。

どこまでも続く青に。

でも私の体は根をはったように動かない。

理由はわかっていた。

まだ伝えていない思いが私のからだの中を動き回っている。

気持ち悪かった。

伝えてしまいたかった。







けれどそれをしてしまったら、もうシュンと話すこともなくなってしまうだろう。

私たちの心の距離は離れているのだから。

これ以上離れるのは耐えられなかった。



シュンが荷物を持ち、また砂浜を歩きだす。

その背中を追いかけることはしなかった。

シュンがちらっとこちらを見た。






ー少し、期待した。

まだ、私たちは離れていないんじゃないかって。

シュンが、何してんの、って声をかけてくれるんじゃないかって。

でもその淡い期待はシュンが砂を踏んだ音によってかきけされた。