結局、現代文の心情理解の問題は、誰も答えられないままチャイムが鳴ってしまい、宿題になってしまった。



「おつかれー莉愛ちゃん、一緒に帰らない?」


「ゆっ、優心くん……!」



優心くんには、まだ返事をしていない。


というか、断ろうとしたら、止められてしまったんだ。


『もう少しよく考えてほしい』って……。



目の前の人に、誠実に……。


いやそれよりもまずは冷静に……っ!


落ち着こう、あたし。



「……う、うん。いいよ、帰ろう」


優心くんへの緊張があっさりと吹き飛んだのは、ふたりで教室を出てすぐのこと。


隣のクラスの扉の前を通る瞬間、すっと意識がそれていき、爽斗くんを探してしまいそうになった。



そんな自分に気づいて、ぐっとこらえる。


「……、で、って聞いてる?」


「え! あ、ごめんね。ぼうっとしてた……」


「んーん。全然いいよ」


ふわりと笑う優心くん。


太陽みたいだ。


優しくて、温かくて、旅人は簡単に心を許すだろう。




――『俺がいるよ』


――『俺が広い世界を見せてあげる』



もし、その旅人が自分自身にそれなりの自信をもっているのなら、
ひとつも疑わずに、なんなく隙を見せるだろう。


こんなまっすぐな言葉が心の中に入り込まないのは、あたしの根底にある気持ちのせいかもしれない。


”……どうして、あたしなんかに……?”