店を出る頃にはすっかり夜も更けていて、仁科が家まで送ってくれた。

あたしが復活してからは、いつも通り最近見たドラマの感想やレポートが終わらないといった話で盛り上がって、思ったより長居をしてしまった。

注文したものは綺麗に完食した。ちょっと調子に乗って頼みすぎた。


「お腹が苦しい。もう明日の1限が遠のいてる」

「若葉はけっこーちゃんと出てるんだし、休んだらいいじゃん。俺はもう諦めた」


仁科は、今年に入ってからひとり暮らし。昔のように近所の人ではない。あたしを送ってくれた後、電車に乗って帰るんだろう。

あたしが帰りやすいように、いつも居酒屋はあたしの最寄り駅近くを選んでくれる。


「いやいや、起きなよ。モニコしたあげよっか? あたしは早起きはできるよ」

「ぜってー起きねぇ。大丈夫」


それ大丈夫って言わないじゃん。けらけら笑った。

仁科はあたしがかぶっていた麦わら帽子を取って、「もっといいやつ買えば良かったかな」と独りごちる。


「ここまで気に入ってくれると思わなかった」

「だって、仁科がくれたやつだからね。いいやつでも、そうじゃなくてもいいんだよ。くれたことが嬉しかったの。お気に入りなんだから返して」


はい、と手を差し出しても、仁科は動かない。どうしてか、目を見開いてこっちを見つめて固まっている。

石像のマネ? いきなりどうした。

おかしな行動に、何なんだと首を傾げた。


「どうかした?」

「おま……酔ってるな?」

「今それ関係なくない? いいから返してよ。もう家入りたい」


渡してくれないので、仁科から取り返そうと麦わら帽子を引っ張ると、手を掴まれた。その手の熱に驚いて身を引こうとしてもピクリともしないくらい、力が強い。

仁科こそ、酔ったんでしょ。様子が変だもん。