「お邪魔します。」

いつも思うが………

尚人の家で、ご両親を見かけない。

普通の一軒家で

生活感もウチと変わらないのに………。

通されたのは

尚人の部屋ではなくリビングだった。

そこでずっと疑問だったご両親の件が解決した。

ソファーとテーブル。

奥にはピアノもある普通のリビングだけど………。

一角だけ違和感のある棚。

中には、ご両親の写真とお花が飾ってありラベンダーの香りのお線香が

白い煙を上げていた。

「あっ、悪い。
煙いか?」

気を使う尚人に首を振り

「拝ませてもらって良いか?」と聞いた。

頷く尚人からお線香をもらい、ご両親に挨拶した。

「俺………両親の顔さえまともに覚えてないんだ。
俺が2歳の頃に死んだらしくて。
物心ついた頃には、兄貴とじいちゃんとばあちゃんと生活してた。
俺にとっては、それが当たり前で
悲しいとか寂しいって感情もなくて………。
悪い。
言いそびれた。
隠してたわけじゃないからな!!」

俺に伝えてない事が後ろめたいのか、そう話してくれる。

「別に気にしてないよ。
それより………お兄さんがいてくれて良かったな。
仲が良いのも納得だ。」

手を合わせ終えてソファーに行くと

お兄さんが入って来た。

「お邪魔してます。
お忙しい所お時間を作って頂き、ありがとうございます。」

深々お辞儀する俺に

「そんなに畏まらなくても。
座って。
尚人、ビール。」と

「あっ、アルコールは………」

辞退する俺に

「遠慮するな。
どうせ泊まって行くだろう?」

学生の頃と変わらない強引さで誘われて

ゆっくり話を聞きたい俺は、頷いた。