そうだよね。こんな立派なお屋敷だもの。
ご家族と一緒に住んでいるはず。
だったら、なおさらお邪魔する訳にはいかない。こんな格好で挨拶なんかできないよ。
「今日はご両親もいらっしゃるんですか?私手ぶらだし、しかもこんな状態だし。お会いするの恥ずかしいです」 
逃げ腰の私に彼はにっこりと微笑んだ。
「両親は今フランスにいる。親父の仕事の拠点がヨーロッパになってね。姉貴は結婚して出て行ったし、今住んでるのは俺だけ。だから緊張する事ない」
いいえ、それはそれで緊張します!
「そんな訳ないじゃないですか!」
「緊張したらまたお腹鳴っちゃうかもしれないよ?」
一条さんの目が笑ってる。
絶対人をからかって面白がってる。
段々彼の性格がわかってきた気がする。
「一条さん!もう知りません!」
私がそっぽを向くと、彼は意地悪く告げた。
「瑠偉だよ。言ったよね?もう今日は部下の時間はお終い」